結婚狂騒曲2
《第3楽章》
(あはは、空が青い。今日はいい天気だなぁ・・・)
人はしばしば直視しがたい現実を受け入れることができずに、逃避行動をとることがある。
この場合のツナヨシがまさにそれだ。
時速ピーkmで疾走する車間で、リボーンとザンザスという暴君二人によって地獄の綱引き状態にあるツナヨシは、うつろな目をして空を見ていた。
もし仮に、この目を疑うエキセントリックな光景を見た関係者がいたとして、まさか他ならぬ彼女が、リボーンとザンザスの上司であることを、誰が推測できるだろうか。
―――もはや助けも期待するだけ無駄なのだ。
ふふふ、と遠くを見つめ弱々しく笑うツナヨシの姿は『哀れ』以外のなにものでもなかった。
しかし、そんなツナヨシの腹部にしゅるりとロープが巻き付いた。
「え?」「ん?」「ああ?」
そして次の瞬間、ツナの体は大きく引っ張られ、空中を飛んでいた。
伸縮性のあるロープは見事、ツナヨシをつり上げ、持ち主の元へ収縮する。要はマグロの一本釣りの要領である。
「んぎゃーーーー!」
そして、短い滞空時間の後、重力に従い落下するツナヨシだったが、幸いにも地面に激突することなく、がしっと確かな腕に抱きとめられたのである。
「クフフフ、災難でしたね。ツナヨシ君。でも、ボクが来たからにはもう安心ですよ」
「ム、ムクロ!?」
極上の笑みを浮かべツナヨシに微笑むのは、彼女の〈霧〉の守護者、六道骸だった。神出鬼没な幻術使いはツナヨシをシートにそっと降ろすと、部下達に指示を出す。
「さあ、さくさく逃げますよ!」
「了解れす!ムクロ様」「めんどいけど・・・」「ボス、大丈夫?」
三者三様の返事に顔をむけると、そこには久しぶりに見る犬、千草、クロームの姿。
「ありがと、クローム」
ふらつくツナヨシを心配して、クロームがそっと支えてくれる。
この気遣い。望むべくもなかった優しさに、思わず涙ぐむツナヨシだったが、改めて彼らを視界におさめると、状況も吹き飛びツッコミを入れてしまった。
「って、なに!この車!その格好!」
ツナヨシが乗っていたのは目を疑うような、純白のオープンカー。仮にもマフィアが白のオープンカーって。いいんだろうか、これ。
その後部座席にはムクロ、クローム、ツナヨシが。そして運転席には犬、助手席には千種が、それぞれよそ行きのドレススーツに身を包んでいた。とくにムクロは、白いタキシード姿だ。悪夢としか思えない光景にツナヨシは頭を抱える。
「クフフ、決まっています。ボクと結婚式を挙げるんですよ。ほら、キミの衣装もこの通り」
「『この通り』じゃ、ないよ!お断りだよ!」
「はあ、相変わらず頑固ですねぇ。アルコバレーノより先に結婚したいのでしょう?ボクが幸せにしてあげますから。さっ、クロームやってしまいなさい」
「はい、ムクロ様」
「無視するなーーー!やっ、ちょ、クローム・・・冗談だよね?」
「ふふ、ボス。かわいい」
頬を染めて言わないでーーーー!悲鳴をあげ、抵抗するツナだったが、マウントポジションをとったクロームは、容赦なくツナのスーツを剥ぎ取っていく。
「ぎゃー!いや、やめてーーー!ホントおねがい!」
「くふふ、その調子ですクローム!うっとうしい後続はボクが引き受けます。安心して作業にはげみなさい。犬、千草!スピードアップです!このまま手近な教会まで逃げ切りましょう」
部下達の頼もしい返事を受け、ムクロは三叉槍を構えると、力を練り上げる。
さすがにアルコバレーノとヴァリアーを同時に相手するとなると、こちらの分が悪い。
だが、目障りな彼らだが倒す必要などない。ただ、逃走ルートを死守すればいいのだ。幸いに市街地も抜け、一般市民への被害を気にする必要もない。幻術の大盤振る舞いだ。
クフフとご機嫌に笑うと、ムクロは練り上げた幻術を解放した。
「みせてあげましょう。ボクとツナヨシくんの愛の結晶を!」
「いらーーーーん!」
ツナヨシのけなげなツッコミは黙殺された。
そのころ、ツナヨシをまんまと一本釣りされた、リボーン組とザンザス組は、猛然とムクロのオープンカーを追走していた。
畜生道で呼び出されたワケがわからん生物をリボーンの銃弾が仕留め、幻術でつくられた障害物をザンザスが憤怒の炎で灼きつくし、あるいは超直感でかわしていく。
さすがは、アルコバレーノ。さすがは、ヴァリアークオリティー。
加えてその間も、お互いへの牽制、もとい嫌がらせは忘れていない。敵を倒すついでにリボーンはザンザスを狙撃し、ザンザスもまたリボーンへ炎弾を撃ち込む。
かくして猛然とムクロの妨害をブチ破っていく二台だが。
その勢いに反してなかなかオープンカーとの距離は縮まっていなかった。
先ほどから、ポイポイと投げ捨てられる物体がその原因だ。
折しもまた一つ、ひらひらと飛んでくる。常人離れした視力のおかげで、その物体が『何か』を認識した運転手二人はハンドル操作を誤り、二台の車は仲良く踊るように揺れる。
窓から身を乗り出していたリボーンとザンザスが運転手を怒鳴りつける。
「コロネロ!てめぇ、ふざけんな。
ツナに逃げられちまうじゃねぇか!」
「う、うううるせぇぞ、コラ」
「カスが!かっ消すぞ!」
「なら、あれを何とかしろぉ!クソボス!」
ペタリとフロントガラスに張り付いた物体。それはツナヨシが着用していた、シャツであった。追跡組には運悪いことに、運転者はコロネロとスクアーロ。ツナヨシの周辺において、1、2を争う『純情さ』をもちあわせている二人だ。
特にコロネロは茹でダコ状態でハンドルを握っている。
先ほどからスーツの上着に、ネクタイ、スラックスが投げ捨てられ。靴はカコンとボンネットにあたり転がっていった。ツナが今どんな状況に置かれているか想像に固くない。
(何をしてやがんだ!ムクロのヤツ)
ツナヨシの身に迫っている危険を想像し、コロネロが怒りに燃える。
そしてまた、ひらひらと飛んでくる白い物体。それを目にした瞬間、コロネロは勢いよくハンドルに額を打ち付け、リボーンはキラリと目を光らせ、はしっと高速でつかみ取った。
「・・・まちがいねぇ、この色気のねぇスポーツブラはツナのもんだぞ。くっ、ツナ!必ず助けてやるからな」
苦悩するリボーンの表情はとても、とても見目麗しく、まるで映画のワンシーンのようだ。しかし、彼はいそいそとソレを懐にしまうことを忘れなかった。
ツナヨシがこの場にいたなら、間違いなく「セクハラ教師」と叫んでいたことだろう。
しかしツナは先ゆくオープンカーの中。後を追う二台は、それぞれアクセルを踏み込んだ。あふれんばかりの殺気をみなぎらせた車がジリジリとその距離を縮めていく。
(あはは、空が青い。今日はいい天気だなぁ・・・)
人はしばしば直視しがたい現実を受け入れることができずに、逃避行動をとることがある。
この場合のツナヨシがまさにそれだ。
時速ピーkmで疾走する車間で、リボーンとザンザスという暴君二人によって地獄の綱引き状態にあるツナヨシは、うつろな目をして空を見ていた。
もし仮に、この目を疑うエキセントリックな光景を見た関係者がいたとして、まさか他ならぬ彼女が、リボーンとザンザスの上司であることを、誰が推測できるだろうか。
―――もはや助けも期待するだけ無駄なのだ。
ふふふ、と遠くを見つめ弱々しく笑うツナヨシの姿は『哀れ』以外のなにものでもなかった。
しかし、そんなツナヨシの腹部にしゅるりとロープが巻き付いた。
「え?」「ん?」「ああ?」
そして次の瞬間、ツナの体は大きく引っ張られ、空中を飛んでいた。
伸縮性のあるロープは見事、ツナヨシをつり上げ、持ち主の元へ収縮する。要はマグロの一本釣りの要領である。
「んぎゃーーーー!」
そして、短い滞空時間の後、重力に従い落下するツナヨシだったが、幸いにも地面に激突することなく、がしっと確かな腕に抱きとめられたのである。
「クフフフ、災難でしたね。ツナヨシ君。でも、ボクが来たからにはもう安心ですよ」
「ム、ムクロ!?」
極上の笑みを浮かべツナヨシに微笑むのは、彼女の〈霧〉の守護者、六道骸だった。神出鬼没な幻術使いはツナヨシをシートにそっと降ろすと、部下達に指示を出す。
「さあ、さくさく逃げますよ!」
「了解れす!ムクロ様」「めんどいけど・・・」「ボス、大丈夫?」
三者三様の返事に顔をむけると、そこには久しぶりに見る犬、千草、クロームの姿。
「ありがと、クローム」
ふらつくツナヨシを心配して、クロームがそっと支えてくれる。
この気遣い。望むべくもなかった優しさに、思わず涙ぐむツナヨシだったが、改めて彼らを視界におさめると、状況も吹き飛びツッコミを入れてしまった。
「って、なに!この車!その格好!」
ツナヨシが乗っていたのは目を疑うような、純白のオープンカー。仮にもマフィアが白のオープンカーって。いいんだろうか、これ。
その後部座席にはムクロ、クローム、ツナヨシが。そして運転席には犬、助手席には千種が、それぞれよそ行きのドレススーツに身を包んでいた。とくにムクロは、白いタキシード姿だ。悪夢としか思えない光景にツナヨシは頭を抱える。
「クフフ、決まっています。ボクと結婚式を挙げるんですよ。ほら、キミの衣装もこの通り」
「『この通り』じゃ、ないよ!お断りだよ!」
「はあ、相変わらず頑固ですねぇ。アルコバレーノより先に結婚したいのでしょう?ボクが幸せにしてあげますから。さっ、クロームやってしまいなさい」
「はい、ムクロ様」
「無視するなーーー!やっ、ちょ、クローム・・・冗談だよね?」
「ふふ、ボス。かわいい」
頬を染めて言わないでーーーー!悲鳴をあげ、抵抗するツナだったが、マウントポジションをとったクロームは、容赦なくツナのスーツを剥ぎ取っていく。
「ぎゃー!いや、やめてーーー!ホントおねがい!」
「くふふ、その調子ですクローム!うっとうしい後続はボクが引き受けます。安心して作業にはげみなさい。犬、千草!スピードアップです!このまま手近な教会まで逃げ切りましょう」
部下達の頼もしい返事を受け、ムクロは三叉槍を構えると、力を練り上げる。
さすがにアルコバレーノとヴァリアーを同時に相手するとなると、こちらの分が悪い。
だが、目障りな彼らだが倒す必要などない。ただ、逃走ルートを死守すればいいのだ。幸いに市街地も抜け、一般市民への被害を気にする必要もない。幻術の大盤振る舞いだ。
クフフとご機嫌に笑うと、ムクロは練り上げた幻術を解放した。
「みせてあげましょう。ボクとツナヨシくんの愛の結晶を!」
「いらーーーーん!」
ツナヨシのけなげなツッコミは黙殺された。
そのころ、ツナヨシをまんまと一本釣りされた、リボーン組とザンザス組は、猛然とムクロのオープンカーを追走していた。
畜生道で呼び出されたワケがわからん生物をリボーンの銃弾が仕留め、幻術でつくられた障害物をザンザスが憤怒の炎で灼きつくし、あるいは超直感でかわしていく。
さすがは、アルコバレーノ。さすがは、ヴァリアークオリティー。
加えてその間も、お互いへの牽制、もとい嫌がらせは忘れていない。敵を倒すついでにリボーンはザンザスを狙撃し、ザンザスもまたリボーンへ炎弾を撃ち込む。
かくして猛然とムクロの妨害をブチ破っていく二台だが。
その勢いに反してなかなかオープンカーとの距離は縮まっていなかった。
先ほどから、ポイポイと投げ捨てられる物体がその原因だ。
折しもまた一つ、ひらひらと飛んでくる。常人離れした視力のおかげで、その物体が『何か』を認識した運転手二人はハンドル操作を誤り、二台の車は仲良く踊るように揺れる。
窓から身を乗り出していたリボーンとザンザスが運転手を怒鳴りつける。
「コロネロ!てめぇ、ふざけんな。
ツナに逃げられちまうじゃねぇか!」
「う、うううるせぇぞ、コラ」
「カスが!かっ消すぞ!」
「なら、あれを何とかしろぉ!クソボス!」
ペタリとフロントガラスに張り付いた物体。それはツナヨシが着用していた、シャツであった。追跡組には運悪いことに、運転者はコロネロとスクアーロ。ツナヨシの周辺において、1、2を争う『純情さ』をもちあわせている二人だ。
特にコロネロは茹でダコ状態でハンドルを握っている。
先ほどからスーツの上着に、ネクタイ、スラックスが投げ捨てられ。靴はカコンとボンネットにあたり転がっていった。ツナが今どんな状況に置かれているか想像に固くない。
(何をしてやがんだ!ムクロのヤツ)
ツナヨシの身に迫っている危険を想像し、コロネロが怒りに燃える。
そしてまた、ひらひらと飛んでくる白い物体。それを目にした瞬間、コロネロは勢いよくハンドルに額を打ち付け、リボーンはキラリと目を光らせ、はしっと高速でつかみ取った。
「・・・まちがいねぇ、この色気のねぇスポーツブラはツナのもんだぞ。くっ、ツナ!必ず助けてやるからな」
苦悩するリボーンの表情はとても、とても見目麗しく、まるで映画のワンシーンのようだ。しかし、彼はいそいそとソレを懐にしまうことを忘れなかった。
ツナヨシがこの場にいたなら、間違いなく「セクハラ教師」と叫んでいたことだろう。
しかしツナは先ゆくオープンカーの中。後を追う二台は、それぞれアクセルを踏み込んだ。あふれんばかりの殺気をみなぎらせた車がジリジリとその距離を縮めていく。