結婚狂騒曲2
純白のドレスに身を包み、ぐったりと横たわるツナヨシを眺めムクロは上機嫌だ。
鼻歌でも歌い出しそうな空気に、前席の二人は虚ろな目で空を見る。
「くふふ、さすがはボクが見立てたドレスです。完璧です。
クローム、お前のアレンジもなかなかいいですね」
「ありがとうございます、ムクロさま」
「さてと。では、お前たちはここで待機。邪魔者が現れたら容赦なく排除しなさい。一応幻覚で誤魔化してますから、そう簡単にはバレないとは思いますが・・・」
ありとあらゆる幻術、妨害工作を駆使して、執拗な追っ手から見事逃げ切ったムクロたちは、とある教会へ駆け込み、車を止めた。
オマケとばかりに、ムクロは幻術で空間を歪め教会を封印し、時間稼ぎに幻影をいくつも飛ばす。
術者もいない追跡組は、いくらザンザスの超直感をもってしても、ムクロたちの居場所を割り出すことは不可能だった。
その手際の良さとやる気を目の当たりにしたツナヨシが、「普段の仕事もこれぐらい力を発揮してよ」と呟いたのは仕方のないことだろう。
「さて、教会にもついたことですし。ツナヨシくん、いざ甘い生活を」
「ひぃ!」
じたばたともがくツナを軽々と抱き上げるとムクロはるんるんと教会へ駆け込んだ。
そのスキップでもするかのような足取りに、改めてげんなりとする千種と犬なのだった。
しかし、教会に入った瞬間、襲ってきた殺気にムクロはツナヨシを放り投げ、身をかわすと三叉槍を出現させ敵に打ち込む。が、しかし、キンッという硬質な音を響かせ、ムクロの攻撃は防がれた。
予想外の展開に驚き、一瞬動きを止めたムクロに、敵はさらに打ち込んでくる。
「くっ!」
とっさに背後へ飛びすさり、攻撃をかわしたものの、ツナヨシには手の届かぬ距離。
「ふぎゃーーー」
またしても空中に放り投げられたツナを抱き留めたのは、
「わぉ、ツナヨシ。何て格好してるんだい。
風紀が乱れるじゃないか」
「雲雀さん!」
そう、ツナヨシの〈雲〉の守護者、雲雀恭弥だった。
「クフフフ、トリですか・・・ボクとツナヨシくんの結婚を邪魔するとはイイ度胸ですね」
おどろおどろしい怨嗟の念をにじませ。ムクロが雲雀に対峙する。
「結婚?ツナヨシが、キミと?
何を言ってるのさ。ツナヨシと結婚するのはボクに決まってるじゃない」
「はい?」
そういえば、雲雀さんは珍しくも和装。しかも紋付き袴。つまりは正装姿だ。その紋が並盛中学の校章なのはさすが永遠の風紀委員長だが。
困惑の表情を浮かべるツナヨシに、珍しくにっこりと笑いかけ、雲雀は宣言する。
「ツナヨシ、目障りな南国果実を咬み殺したらすぐに式を挙げるからね」
「いや、あの、雲雀さん?」
「クフフ、トリの分際で生意気な。返り討ちにしてくれますよ・・・」
トンファーを構える雲雀にムクロが三叉槍で応じる。
二人の背後には黒々と怨念と邪気が渦を巻いている。絶対、目の錯覚などではない。
―――神聖なる地。神の御元。安息の場所であるはずの教会で、何故これほど邪悪で険悪な空気にさらされなければならないのか。
思わず神様を問いつめたくもなるが、今はひたすら避難。
凶悪な笑みと邪悪な笑みを浮かべ、最悪の相性をもつツナヨシの守護者〈雲〉と〈霧〉が激突した。その衝撃に机、イス、燭台、あらゆる物が吹き飛び、天窓が砕け散る。
――――数時間の後には、瓦礫の山と化すであろう教会から、ツナヨシはあわてて逃げ出したのだった。