結婚狂騒曲3
《終幕》
見事に整えられた屋敷は今や見る影もなかった。石造りの壁にはいくつもの大穴が開けられ、柱のいくつかは無惨に折れている。
窓ガラスはほぼ全滅。かろうじて全壊はまぬがれているものの、建物自体がかしいで見えるのは決して目の錯覚でも、地盤沈下の影響でもない。
しかし前庭はさらにもまして、悲劇的な状況にあった。調度品は粉砕され、庭木はいまだパチパチと火がくすぶっている。もとは美しく刈り込まれ手入れされた芝部には、あちこちに無惨な焼けこげ、さらに所々に氷の柱が出現している。
そして、うめき声をあげ横たわる男たち。中にはこんがり焦げていたり、冷凍状態にあるものもいる。死屍累々、その言葉がまさにふさわしい光景だった。
その中でただ一人佇む小柄な人影は「ふんっ」と鼻息もあらくイタリアマフィア界屈指の精鋭たち(故)を睥睨する。全員を地にたたき伏せたツナヨシは、Xグローブから炎を解くと、手袋を投げてよこした救世主、すなわちラル・ミルチに飛びついた。
「ありがとう!ホント助かったよ。ラル、好きだ~」
少女にしては力強い腕が、ツナヨシをがしっと抱きしめる。
その予想以上の抱擁に「あれ?」と違和感を覚えるも、とりあえずは魔の手から逃れられたツナヨシは上機嫌だ。
何も考えずに抱擁を受け入れる。
「まったく、バカどもが」
ラル・ミルチは呆れ顔でそう吐き捨てると地面に倒れるバカどもを一瞥。そして表情を一転させ、腕の中のツナヨシに囁いた。
「安心しろ、沢田。オレがお前を幸せにしてやる」
「え?」
すごみのある笑顔を向けられたツナヨシは、新たな魔の手がそこにあることに、今更ながら気付いたのだった。
―――――老若男女、あらゆる人間を惹きつけるツナの受難は、まだまだ続くのだった。
END.