二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ひだまり2

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

そう言いたかったけれど、そこは飲み込んだ。


だって、マスターと俺を比べるなんて・・・。


「カイト君は、今でも十分、上手ですよ」
「えっ?そ、そんなことないです!まだ、何も教わってないし!」
「歌、好きでしょう?」

いきなり言われ、俺は驚いて、

「え?あの、マスター?」
「カイト君の声を、初めて聞いた時、思ったんですよ。ああ、この子は、本当に歌が好きなんだなあって。それは、とても大事なことです。本当に好きなことには、どんなことがあっても、必ず戻ってくるから」

マスターは、そう言って笑うと、

「私もね、何度も、歌をやめようと思いました」
「えっ!?そんな!!」


マスターが、歌をやめるだなんて。
そんなこと、考えられない。

こんなに、綺麗な声なのに。


「でもねえ、結局、戻ってきてしまうんです。どうしても、歌いたくなる。歌に関わっていたいと思う。その内、やめることをやめました」

「結局、好きなんですねえ」と、マスターは笑う。

「カイト君も、歌うことが好きでしょう?」
「・・・はい」
「好きなことは、続けられるし、上達も早いですから。心配しなくても、大丈夫ですよ」
「はい。あの・・・」

俺は、ちょっとためらってから、思い切って言った。

「俺も、いつか歌えるようになるでしょうか。・・・マスターみたいに」
「もちろんですよ」

マスターは振り向いて、にっこり笑うと、

「心配しなくても、私のことなんて、すぐに追い抜いてしまいますよ」


!?

ま、マスターを超えるなんて!そんなこと!!

ありえないけど・・・でも、あの


「マスター、あの・・・俺に、沢山、歌わせて下さいね」
「ええ、もちろんですよ」


いつか、マスターに追いつけるように。
頑張りますから。




湯船は、二人で浸かっても、まだ余裕があった。
さすがに、手足を伸ばすほどではないけれど、それでも、ゆったりと入れるのは、気持ちいい。

「カイト君は、この歌を知ってますか?」
「え?」

マスターが口ずさんだのは、俺の知らない歌。

もっとも、俺は、歌に関しての知識は、殆どない。
マスターの趣味嗜好に合わせる為、わざと、データをいれていないのだ。


・・・でも、知らないって言ったら、マスターは、がっかりするかな。


考えても分からないので、恐る恐る、本当のことを言った。

「あの・・・ごめんなさい。分かりません」
「いえ、謝ることはないですよ。知らなければ、教えますから」

マスターは、怒るどころか、丁寧に歌詞を教えてくれる。


歌の題は、「夏の思い出」と言うらしい。


マスターが何度か歌ってくれて、俺が歌ってみたのを、マスターが修正してくれた。
俺は、時々音を外したりしてしまったけれど、マスターは怒ったりせず、何度も教えてくれて。

最後は、二人で一緒に、歌うことができた。




「カイト君の声は、テノールですね」

風呂からあがって、着替えながら、マスターが言った。
テノールというのは、男声パートの一つだと、教えてくれる。

「練習すれば、もっと高い音も、綺麗に出せると思いますよ」
「え?あの、マスターは?」

マスターと同じパートだったらいいなと、思ったのだけれど。

「私は、バリトンですよ。カイト君より、低いパートです」
「そうなんですか・・・」

少しがっかりしたけれど、マスターが、

「今度、パート分けして、歌ってみましょうね。楽しいですよ」
「あ、はい!」

「パート分けして歌う」ことが、どんなことかは、よく分からないけれど。
マスターが「楽しい」と言ってくれるなら、違うパートで良かったのかもしれない。




夜、「何処でも、好きな部屋で寝て下さい」と、マスターが言ってくれたので、思い切って、マスターの部屋がいいと、言ってみた。
驚かれるかと思ったけれど、「カイト君が良ければ」と、マスターが笑ってくれて、ほっとする。


布団を並べ、おやすみなさいを言って、明かりを消すと、

「カイト君、子守唄を歌ってもいいですか?」
「え?あ、も、もちろんです!お願いします!」
「そうですか。良かった」

マスターは、「決して、子供扱いしているわけでは、ないんですが」と前置きしてから、ゆったりと歌い出した。


日本語じゃない。どこの国の歌だろう。


マスターに聞こうかと思ったけれど、歌の邪魔をしたくなかったので、明日にしようと思う。


・・・眠い・・・でも、マスターの歌を、聞いていたい・・・。


もっとずっと、聞いていたいのに。
とろとろと瞼が下がってきて、頭がぼんやりしてきた。


マスター、俺、もっともっと練習して、上手に歌えるよう、頑張りますから。
沢山、マスターの歌を、聞かせて下さい。

マスターのところに来れて、本当に、嬉しいです。


「おやすみ、カイト君」

マスターの優しい、囁くような声を、遠くに聞きながら、深い眠りに落ちていった。


終わり
作品名:ひだまり2 作家名:シャオ