彼岸花
[彼岸花]
────────────────────────────────────────
あぁ、・・・・・・
彼岸花が、咲いているの。
私の周りに
いっぱい彼岸花の花が・・・・・・・
毒々しい、それでいて美しい
彼岸花が、
私を誘うように
・・・・・・咲いているの。
「それで」
静かな囁きがその話の先を促した。
私は、何故か椅子に座り込んで話をしていた。
闇の中、四隅の部屋の一番、真ん中に座って話をしていた。
どうして、こんなところにいるのか分からない。
ただ気ついたらもう、ここに座っていて私は見えない相手に話をしていた。
「私は彼岸花が嫌いなの」
遠く近い記憶を辿る様に。
「秋が来る度に土手にいつの間にか咲いているあの花が。」
「それはどうしてだい?」
「毒々しいあの紅い花の色が嫌いなの。」
私は笑った。
「ねぇ知っていますか?彼岸花のあの色が人の血の色だってことを。」
一巡り、一巡り。
季節が変わって、また秋が来た時にいつの間にか、咲く彼岸花。
「知らないうちに何処かで咲いて、そして知らないうちに散っていく。
そして秋が来たらまた花開く・・・・・・・人の血を浴びて紅く咲くんです。」
目を閉じて。
私は目蓋の裏の紅い花をイメージする。
紅い、紅い、血。
紅い、
紅い、
紅い、
紅い・・・・・・無数の、紅。
【思い出してはダメ】
何処か遠くで、誰かが囁く。
【思い出してはダメ】
あぁ
・・・・・・だぁれ?
私の記憶を【目隠し】するのは
・・・・・・誰?
「続けよう」
口をつぐんだ私にその誰かはそういった。
「ねぇ」
私は暗闇の中にいるだろうその誰かに聞いてみる。
「あなたは彼岸花が、好き?」
「好きかもしれないな」
「どうして?」
「それは鮮やかな毒々しい紅色だからさ。」
闇が揺らめいているように私には見えた。私は眉根を寄せて。
「私は、嫌いよ。」
吐き出すようにそういった。
目蓋の裏には鮮やかな紅の彼岸花。私は、あの時・・・・・・、
【思い出してはダメ】
悲鳴を遠いところで聞いていた。
けれど私は、それを思い出そうとしている。
【ダ・メ!】
「そう、よ・・・・・・」
ゆっくりと、ゆっくりと私はその中に入っていく。
深遠の淵に沈み込む様に・・・・・・
私は、沈む・・・・・・・
『ヤメテ!!』
彼岸花が好きだとあの人は言ったわ。
月が真上に煌々と照らし出す夜に。
私はとっておきの場所を教えたのよ。
あの人が好きだといった彼岸花の咲く場所へ。
闇夜にひっそりと咲くあの彼岸花を見たら、きっと喜んでくれるはずだと。
私はあの人が好きだった。
あの人が好きだった。
それなのに。
鬼人のような表情で突然、力ずくで私を組み敷いた。
頭の中でバラバラに欠けた場面。
それが一度、崩れては再び元に戻っていく。
両手首を帯で縛られて、私は泣き叫ぶ。
蹂躙される身体は紅く痣をつけられる。
自由を奪われて――、
『いやぁーっっ』
怖かった。怖かった。
どうして、どうしてこんなひどい仕打ちをされなきゃいけないの。
喜んでくれるものだと、思っていたのに。
どうし、て・・・・・・
最後に見たものは紅い紅い、彼岸花。
紅い、紅い・・・・・・・
「あぁ・・・・・・・・っ、」
私は自分で自分の肩を抱きしめた。
「だから、嫌いなのだわ。」
つぶやいて吐息をついた。
だから私は覚えている。
この身体で、覚えている。
あぁ・・・・・・でも、
・・・・・・もう、何も考えたくない、わ。
硬い椅子の背に身体を預けて。
私はゆっくりと目を、閉じる。
そして、【私】の話を聞いていた気配がゆっくりと消える。
私は、また闇に沈む。
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あぁ、・・・・・・
彼岸花が、咲いているの。
私の周りに
いっぱい彼岸花の花が・・・・・・・
毒々しい、それでいて美しい
彼岸花が、
私を誘うように
・・・・・・咲いているの。
「それで」
静かな囁きがその話の先を促した。
私は、何故か椅子に座り込んで話をしていた。
闇の中、四隅の部屋の一番、真ん中に座って話をしていた。
どうして、こんなところにいるのか分からない。
ただ気ついたらもう、ここに座っていて私は見えない相手に話をしていた。
「私は彼岸花が嫌いなの」
遠く近い記憶を辿る様に。
「秋が来る度に土手にいつの間にか咲いているあの花が。」
「それはどうしてだい?」
「毒々しいあの紅い花の色が嫌いなの。」
私は笑った。
「ねぇ知っていますか?彼岸花のあの色が人の血の色だってことを。」
一巡り、一巡り。
季節が変わって、また秋が来た時にいつの間にか、咲く彼岸花。
「知らないうちに何処かで咲いて、そして知らないうちに散っていく。
そして秋が来たらまた花開く・・・・・・・人の血を浴びて紅く咲くんです。」
目を閉じて。
私は目蓋の裏の紅い花をイメージする。
紅い、紅い、血。
紅い、
紅い、
紅い、
紅い・・・・・・無数の、紅。
【思い出してはダメ】
何処か遠くで、誰かが囁く。
【思い出してはダメ】
あぁ
・・・・・・だぁれ?
私の記憶を【目隠し】するのは
・・・・・・誰?
「続けよう」
口をつぐんだ私にその誰かはそういった。
「ねぇ」
私は暗闇の中にいるだろうその誰かに聞いてみる。
「あなたは彼岸花が、好き?」
「好きかもしれないな」
「どうして?」
「それは鮮やかな毒々しい紅色だからさ。」
闇が揺らめいているように私には見えた。私は眉根を寄せて。
「私は、嫌いよ。」
吐き出すようにそういった。
目蓋の裏には鮮やかな紅の彼岸花。私は、あの時・・・・・・、
【思い出してはダメ】
悲鳴を遠いところで聞いていた。
けれど私は、それを思い出そうとしている。
【ダ・メ!】
「そう、よ・・・・・・」
ゆっくりと、ゆっくりと私はその中に入っていく。
深遠の淵に沈み込む様に・・・・・・
私は、沈む・・・・・・・
『ヤメテ!!』
彼岸花が好きだとあの人は言ったわ。
月が真上に煌々と照らし出す夜に。
私はとっておきの場所を教えたのよ。
あの人が好きだといった彼岸花の咲く場所へ。
闇夜にひっそりと咲くあの彼岸花を見たら、きっと喜んでくれるはずだと。
私はあの人が好きだった。
あの人が好きだった。
それなのに。
鬼人のような表情で突然、力ずくで私を組み敷いた。
頭の中でバラバラに欠けた場面。
それが一度、崩れては再び元に戻っていく。
両手首を帯で縛られて、私は泣き叫ぶ。
蹂躙される身体は紅く痣をつけられる。
自由を奪われて――、
『いやぁーっっ』
怖かった。怖かった。
どうして、どうしてこんなひどい仕打ちをされなきゃいけないの。
喜んでくれるものだと、思っていたのに。
どうし、て・・・・・・
最後に見たものは紅い紅い、彼岸花。
紅い、紅い・・・・・・・
「あぁ・・・・・・・・っ、」
私は自分で自分の肩を抱きしめた。
「だから、嫌いなのだわ。」
つぶやいて吐息をついた。
だから私は覚えている。
この身体で、覚えている。
あぁ・・・・・・でも、
・・・・・・もう、何も考えたくない、わ。
硬い椅子の背に身体を預けて。
私はゆっくりと目を、閉じる。
そして、【私】の話を聞いていた気配がゆっくりと消える。
私は、また闇に沈む。