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「我は何もしてやれぬ」

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その日も雨が降っていた。それも確か、三成が嫌う篠突く雨だ。
 だがあの頃、三成も大谷もまだ幼かった頃には、三成はむしろ雨の日を好んでいたように思う。雨が降りだすと、半兵衛が決まってこう言ってくれるからだ。
「やれやれ、この雨じゃ馬術の訓練も剣の稽古もできないね。二人とも、僕の部屋においで。何か書を貸してあげるから、午後は書見の時間にするといい」
 そう言われると、いつも三成――当時は佐吉と呼ばれていた――の目は輝いた。三成は馬に乗るのも刀を振り回すのも嫌いではなかったし、武芸の上達を秀吉に褒められるのを何より嬉しがる少年ではあったが、それと同じぐらい読書も好きだったのだ。
 だから半兵衛からの声がかかると、いつも大変な騒ぎになった。
「紀之介、早くしろ。すぐに竹中様のお部屋に向かうぞ」
 そうやって三成に急かされたことは一度や二度ではない。腕を掴まれ、引きずられるような格好で半兵衛の部屋まで連れて行かれたことさえあった。大谷の都合など聞きもしないのである。
 しかし、大谷はそれを嫌だと思っていなかった。三成が雨の日を好むように、彼もこの年下の友人を好んでいたのだ。
 後の病の予兆か、大谷はこの頃から既に体調を崩しがちであった。同じ小姓衆の少年たちが秀吉や半兵衛に命じられた雑用をこなしたり、その合間を縫って修練を行う様子を、床の上から見ることしかできない日も少なくはなかった。
 そんなことが続くうちに、大谷とその他の少年たちの間には埋まらぬ溝が開いていった。大谷とて好きでこんな体に生まれたわけではない。だが同じ秀吉に仕える仲間であるはずの少年たちは、そう見なかったのである。
(あいつはいつも休んでばかりいる)
(日々の修練もさぼってばかりじゃないか)
(将来は秀吉様の片腕となるべく励むのが、我ら小姓衆の本懐だと言うのに)
 中には、そのような中傷から庇おうとしてくれた者もいたらしい。だが彼等も「なぜあんなやつを庇うのだ」と今度は自分が責められて、それきり口を閉ざしてしまった。
 怠け者だと陰口を叩かれ、床から離れられない軟弱者と見下され、とばっちりを受けるのを怖れて近寄る者も口を利く者もいない。それが当時の大谷だった。
 ところがある日、そんなことをまるで意に介さぬように声をかけてきた者がいる。
作品名:「我は何もしてやれぬ」 作家名:からこ