甘い罠
(おかしい・・・)
その日、池袋の喧嘩人形こと平和島静雄は、クレープを片手にベンチに腰掛けていた。
隣にちょこんとぬいぐるみかのように一人の少年が座っている。
少年は一見どこにでもいる平凡な姿をしていたが、中身は池袋のカラーギャングダラーズのリーダーだったりする。
こちらも小さな手を使って、両手でクレープを握り締めるようにしてちまちまと、これまた小さな口で食べている。
(やっぱりおかしい・・・)
と静雄は帝人に気付かれないように、疑問の表情を浮かべた。
偶然仕事帰りの静雄と、学校帰りの帝人が出会うことは時々あった。
立ち話をして、いつの頃からか立ち話もなんだし、と公園のベンチに座ったり、ファーストフードの店に入ってご飯を食べたりなんてするようになった。
(それはいい。嬉しいし・・俺みたいなやつに怯えないで会話をしてくれるなんて、そういねぇし、ありがてぇんだ)
不思議なのは、この今手に持っているクレープが、帝人が買ってくれたものだということだ。
クレープだけじゃない、ファーストフードでは自分の分は自分で買うからいいが、こうして外で何かを食べる時は、帝人はやたらと奢りたがった。
クレープしかり、ココアしかり、アイスしかり・・カキ氷(イチゴの練乳掛け)や飴(イチゴ味)やチョコレートを渡されたときもあった。
(俺が奢るつっても拒否るし・・無理やり渡したら怒るし・・・)
他の人間から見れば冷や汗ものだっただろう。
クレープを片手に、少年が静雄へ向かって「僕の買ったクレープが食べれないんですか!」と食って掛かっているのだ。
(人に奢りたい年頃・・?あるのかそんなの。っていうか苦学生じゃなかったっけこいつ・・・晩飯とか奢ってやるべきだよなぁ)
もきゅもきゅとクレープを食べきって、ちらりと横目で帝人のほうを伺ってみれば、まだちまちまと小さな口で精一杯食べている。
その姿はリスのようで、不可解な状況にも関わらずほんわりとしてしまった静雄は、今日も『なぜ奢りたいのか』という疑問を解決できないまま、穏やかな時間を過ごしてしまうのだ。
+
「よっしゃぁ!」
「え、ど、どうしたんですか静雄さん!?」
ガッツポーズをとる静雄と、それをぎょっとした目で見つめる帝人。
そんな2人は今日はスイーツパラダイスにいた。
静雄の姿が見えた瞬間、店にいた人々はそそくさと出て行ってしまったので、残ったのは帝人たちと静雄のことをよく知らない数名の客だけだったが、そんな周りの状況など今の静雄にとってはどうでもよかった。
(今日こそ奢れる・・!)
男として、年上として、メンツが保てるのだ。
今日も今日とて出会った2人は、どこかに入って何か食べようと話していた。
そこでこのスイーツパラダイスのことを静雄が話題に出したのだ。
静雄は甘いものが好きだ。苦くて辛いものより、甘くてとろけるようなものが好きだ。
だからこのスイパラに一度どうしても行ってみたかったのだが、いかんせん静雄と甘いものが見た目的にも、一緒にいける人間とも合わなかった。
世話になりっぱなしである上司のトムはそれほど甘いものが好きではないし、いい年した男2人でスイパラって・・・というのが正しい。
じゃあヴァローナとでも・・と思った時に、ふと帝人のことを思い出したのだ。
どうせいつも出会うわけだし、自分が店に誘ったらさすがに誘った側として奢りたいと言って拒否されることはないだろう。
と、珍しく頭を働かせた結果、
「今日は俺が誘ったからな。ここは奢らせろ。何が何でも奢らせろ」
「あ、はい。わかりました。ありがとうございます」
とにっこり帝人が笑ってくれたのである。
そして威勢のいい掛け声とガッツポーズへと続く。
その日、池袋の喧嘩人形こと平和島静雄は、クレープを片手にベンチに腰掛けていた。
隣にちょこんとぬいぐるみかのように一人の少年が座っている。
少年は一見どこにでもいる平凡な姿をしていたが、中身は池袋のカラーギャングダラーズのリーダーだったりする。
こちらも小さな手を使って、両手でクレープを握り締めるようにしてちまちまと、これまた小さな口で食べている。
(やっぱりおかしい・・・)
と静雄は帝人に気付かれないように、疑問の表情を浮かべた。
偶然仕事帰りの静雄と、学校帰りの帝人が出会うことは時々あった。
立ち話をして、いつの頃からか立ち話もなんだし、と公園のベンチに座ったり、ファーストフードの店に入ってご飯を食べたりなんてするようになった。
(それはいい。嬉しいし・・俺みたいなやつに怯えないで会話をしてくれるなんて、そういねぇし、ありがてぇんだ)
不思議なのは、この今手に持っているクレープが、帝人が買ってくれたものだということだ。
クレープだけじゃない、ファーストフードでは自分の分は自分で買うからいいが、こうして外で何かを食べる時は、帝人はやたらと奢りたがった。
クレープしかり、ココアしかり、アイスしかり・・カキ氷(イチゴの練乳掛け)や飴(イチゴ味)やチョコレートを渡されたときもあった。
(俺が奢るつっても拒否るし・・無理やり渡したら怒るし・・・)
他の人間から見れば冷や汗ものだっただろう。
クレープを片手に、少年が静雄へ向かって「僕の買ったクレープが食べれないんですか!」と食って掛かっているのだ。
(人に奢りたい年頃・・?あるのかそんなの。っていうか苦学生じゃなかったっけこいつ・・・晩飯とか奢ってやるべきだよなぁ)
もきゅもきゅとクレープを食べきって、ちらりと横目で帝人のほうを伺ってみれば、まだちまちまと小さな口で精一杯食べている。
その姿はリスのようで、不可解な状況にも関わらずほんわりとしてしまった静雄は、今日も『なぜ奢りたいのか』という疑問を解決できないまま、穏やかな時間を過ごしてしまうのだ。
+
「よっしゃぁ!」
「え、ど、どうしたんですか静雄さん!?」
ガッツポーズをとる静雄と、それをぎょっとした目で見つめる帝人。
そんな2人は今日はスイーツパラダイスにいた。
静雄の姿が見えた瞬間、店にいた人々はそそくさと出て行ってしまったので、残ったのは帝人たちと静雄のことをよく知らない数名の客だけだったが、そんな周りの状況など今の静雄にとってはどうでもよかった。
(今日こそ奢れる・・!)
男として、年上として、メンツが保てるのだ。
今日も今日とて出会った2人は、どこかに入って何か食べようと話していた。
そこでこのスイーツパラダイスのことを静雄が話題に出したのだ。
静雄は甘いものが好きだ。苦くて辛いものより、甘くてとろけるようなものが好きだ。
だからこのスイパラに一度どうしても行ってみたかったのだが、いかんせん静雄と甘いものが見た目的にも、一緒にいける人間とも合わなかった。
世話になりっぱなしである上司のトムはそれほど甘いものが好きではないし、いい年した男2人でスイパラって・・・というのが正しい。
じゃあヴァローナとでも・・と思った時に、ふと帝人のことを思い出したのだ。
どうせいつも出会うわけだし、自分が店に誘ったらさすがに誘った側として奢りたいと言って拒否されることはないだろう。
と、珍しく頭を働かせた結果、
「今日は俺が誘ったからな。ここは奢らせろ。何が何でも奢らせろ」
「あ、はい。わかりました。ありがとうございます」
とにっこり帝人が笑ってくれたのである。
そして威勢のいい掛け声とガッツポーズへと続く。