甘い罠
客の少なくなった店内で、どんどんとスイーツが皿にてんこ盛りになっていく。
マシュマロのチョコフォンデュを食べながら、相変わらずリスのように頬を膨らませている帝人を見て、静雄は軽く苦笑する。
(俺の高校時代にもこんなやつがいてくれたらな・・もっとマシだった気がする)
苦い過去を思い出しかけて、慌ててケーキを口に放り込む。
とたんに広がる甘い味わいに、静雄の頬もじんわりと緩んだ。
その様子をじぃっと見つめていた帝人が、静雄と目が合う前に慌てて目を伏せる。
テーブルのブラックコーヒーを一口飲んだあと、
「静雄さんはそんなに食べて何で太らないんですかね?」
なんて首を傾げるが、逆に静雄も不思議だった。
「お前こそ何でそんなに細ぇんだよ。ちゃんと食べねーと倒れるぞ、ほらこれも食え」
実際に比べてみたことはないけれど、きっと帝人の体格は自分と一回りぐらい違うのだろうと思う。
よく無事に生きてるな、と思うのと同時に心配になってくるのだ。
皿に乗せていたケーキをいくつか帝人の皿に移すと、慌てて「もう食べれませんよ!お腹いっぱいです!」とわたわた手を振られてしまう。
「あー、んじゃこれだったらどうだ?」
手元のショートケーキを一口サイズに切ってフォークに突き刺す。
そのまま帝人の口元へ近づけた。
きょとんとする帝人の顔が、じわじわと赤く染まっていく。
それに対してまた首を傾げる静雄は、自分が「はい、あーん」の体勢になっていることなんて気付いてもいない。
フォークを差し出したまま動かない静雄に、数秒ためらっていた帝人が、小さい口を近づけて、ぱくんとショートケーキに食いついた。
(うぉ、可愛いな・・)
恥ずかしげに頬を赤らめて上目づかいに見られると、静雄はなんだかドキドキしてしまった。
そっとフォークを引いたときに感じた舌の弾力が手に伝わって、こちらも顔が赤くなってしまう。
こくりとコーヒーを飲んで
「じゃあ、僕もお返しです」
と言って、同じように皿に残っていたチーズケーキを、先ほどより大きめサイズに切ってフォークへ刺すと、静雄の口元へと差し出す。
きゅっと怒ったように眉を少しだけ寄せた帝人の表情に、
(・・・断ったら胸倉掴まれる気がする)
と先日までのやり取りを思い出しながら、ぱくんとチーズケーキに食いつく。
もごもごと食べながら帝人を見やれば、少しだけ驚いたように目を大きくして、それからふにゃりと笑った。
一気に気の抜けたような柔らかい微笑みを見て、慌てて静雄はテーブルに視線を戻した。
(な、なんか照れる・・な・・・)
2人して顔を赤くしてケーキを食べあっている姿に、残った客たちは生暖かい視線を向けていたが。