甘い罠
「・・・は?」
「あぁぁぁぁぁ・・・っ」
きょとんとする静雄とは正反対に、頭を抱えて帝人がしゃがみこむ。
その2人の反応を見て、臨也も「・・え?」と軽くのけぞった。
膝に顔を押し付けている帝人は耳まで赤くなっている。
そんな帝人を見下ろしながら、臨也はまさかと思いながら口を開いた。
「・・・え、し、シズちゃんが誘ってた・・んだよね?帝人君の好みってさ、ほら、焼き鳥とかみそせんべいとか、居酒屋メニュー的なの・・だから・・・え、なに、マジで?」
混乱している臨也の前で、先ほどとは違った意味で静雄は頭が爆発しそうになっていた。
(帝人が甘いの好きじゃない・・?何言ってんだこいつ。あれだけ楽しそうにケーキとかクレープとかアイスとか俺ら一緒に食べてて・・・・あれ?)
脳内で今までのことを必死に思い返す。
外で帝人が奢るようなクレープやアイスは帝人も普通に食べていた。
けれど、店に行ったとき、ケーキと一緒に帝人が飲んでいたものはそれに見合うよな紅茶とかジュースではなく、ブラックコーヒーじゃなかったか?
それに生クリーム系のものよりはチーズケーキとかタルトとかパイとか、さっぱりしたもののほうが多かった。
そこまで考えて、思考停止しそうになった静雄の目の前で、帝人がガバッと突然立ち上がった。
「み、帝人君、え、違うよね?まさかシズちゃんと一緒にいたいからって甘いもので釣ってたとかそんな」
「うわぁぁぁっ!この・・っ、ウザ野郎が!!好きな人が好きなもの食べて幸せそうな姿見たくて何が悪いんですかこんちくしょう!!死ね!!」
静雄もかくやというほどの大声を上げた帝人が、掴まれていた手を振り払って臨也の頭を両手でつかんだ。
そのまま勢いをつけて、ガツンと店内に響く鈍い骨同士が当たる頭突きの音。
もんどりうって倒れた臨也をゲシゲシと足蹴にして、右手にボールペンを構え始めている。
あまりのことに抵抗できない臨也をマウントポジションに陣取ってタコ殴りにしている帝人の姿を見ながら、静雄は叫ぶように告げられた言葉を反芻した。
(つまり・・・俺と、一緒に、いたくて、甘いもの、好き・・だから、すき?帝人が、俺を、好き?)
ぐわっと一気に顔が赤くなる。
嫌な気持ちでぐるぐるしていた腹が、今度は別の気持ちで熱くなっていく。
よくよく帝人の姿を見てみれば、血だるまになりはじめている臨也と同じくらい頬が赤らんでいる。
しかも暴露されて恥ずかしかったのか、目じりには涙が溜まっていて。
その恥ずかしそうな顔を見て、静雄は反射的に叫んだ。
「おぉぉおれも好きだぁぁーーーっ!!」
とっさに掴んだ机が、ごしゃりと音を立てて潰れた。
帝人に負けないぐらいに赤く染まった顔を向ける先で、帝人が大きい目をさらに大きくしている。
すきだぁぁ・・・・と声の余韻が店内から完全に消え去るころ、感極まった帝人が
「し、しずおさん・・っ!!」
と名前を呼びながら、静雄の胸に飛び込んでくる。
想像以上に軽い体を受け止めて、初めて感じる愛おしさに静雄は満面の笑みを浮かべて帝人をしっかりと抱きしめた。
ごとりと帝人の手から落ちたボールペン付きの臨也は視界に不愉快だったので、すぐさま見なかったことにしたけれど。
そして付き合い始めた2人のばかっぷるっぷりに、池袋に激震が走るまであと少し――