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似たもの同士の僕ら。

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向かい合って話をして、冗談なんか言って笑って、ふと、視線が絡んで。
あ、今だな、と思うその一瞬がある。
それはいわゆる、タイミングというものがかみ合った一瞬で、きっと感じている本人にしか分からない感覚だろう。帝人はそのときふとそのタイミングと言うのを掴んでしまい、「言わなきゃ」と思った。
来良の屋上。
本当なら部外者立ち入り禁止のそこに、当たり前のように黒いコートをなびかせて笑っている、その人に。
今だ、今、伝えなきゃいけない。
息を呑んで、真剣さが滲むような声で、その人の名前を呼んでみた。


「臨也、さん」


和やかな空気に落とされた、波紋。
見詰めたその先で、臨也もまた同じように息を呑む。
言おう、と思っている人間の緊張は、同じように言われるほうにも伝わって、二人揃って「今だ」と自覚する。
帝人は胸のうちから言葉を探し、臨也は耳を済ませてその言葉を待つ。
「僕、あの・・・、あなたの、ことが」
一瞬だけ、言いよどんだ。だって照れくさい。そして区切られた言葉のその一瞬の間に、臨也は何かを思い出したようにはっとした顔をして。
「その、あなたが、す・・・」
「待って!」
そして告げようとしたその言葉を、大声でさえぎった。


一瞬の静寂。


「な・・・、なんですか一体!今すごくいいタイミングだったのに!」
お分かりだろう、タイミングと言うのは一度逃すとそうやすやすとはもどってこない。さっきまでの胸の高鳴る少女マンガのような雰囲気を綺麗に吹っ飛ばして、帝人は思わず怒鳴った。
これが怒鳴らずにいられるか。
臨也と帝人は、これまでわりと順当に王道な恋愛フラグを積み重ねてきたと思う。むしろフラグ立ちすぎじゃないのってくらいの数を、一つ一つ丁寧にこなし、慎重に慎重にじりじりと近づいて、今ようやくこの距離にたどり着いた。多分、二人揃って不器用で臆病なのだ。だから、ありとあらゆる手段を使って、保険ばかり作り上げて、必死になってもっと側に寄ろうとしたりして。
そして本当に完全に、相手も自分を好きなんだという確信が持てなければ言葉にできない。似たもの同士の恋愛は、そういうところがとても不便だった。
早く、もっとちゃんと触れ合いたいと思うのと同じくらい、好きだというのは怖かった。それでも最近はお互いに頑張って、雰囲気とか言動で、互いに好意を知らせあったりして、それでようやく、言ってもいいのかなというところまでこぎつけたというのに。
本当に、やっと、ここまできたっていうのに、だ。
「台無しじゃないですか!」
ほとんど涙目になって怒鳴る帝人に、大声で告白をさえぎった張本人である臨也も若干涙目になりつつ、
「でもだめ、ここはだめ、絶対にだめなの!」
と、こちらも必死に怒鳴り返す。
ゆるく、生暖かい風が吹いて、学生の学び舎には似つかわしくない黒いコートがはたはたとなびく。これだけお互いの気持を知っていて、まだ告白さえしてないというのは正直、もどかしいにも程がある。帝人は正直、今すぐにでもこの真っ黒の男にキスがしたかった。痛いほど抱きしめて欲しかった。その肌に直接触れたいとも思うし、それが許されるというのならば、どこにだって攫っていって欲しかった。だというのに、だ。
「どういう了見でせっかくのフラグへし折ったのか、聞かせてもらいたいですね、是非に!」
精一杯の努力をふいにされたことへの、帝人の怒りは大きい。ちょっとやそっとの理由では納得しないぞ!という決意の顔で臨也を睨めば、臨也はだって、と言葉を詰まらせた。
「・・・日本人ってさ、ジンクスとか、好きでしょ」
そしてまず言ったのはそんなこと。
「・・・はい?」
首をかしげた帝人に向けて、だからね!と。
「最初のデートでネズミーランドに行ったカップルは必ず別れる、とか、某東京都内駅前のクリスマスイルミネーションをカップルで見ると結婚できるとか、そういうのだよ!」
「え、なんですかそれ初耳ですけど・・・」
「俺だってネットの噂でしか聞いたことないけど!ネズミーランドにいたっては、真逆の噂まであってどっちが正しいんだか良くわかんないけど、でも、それでもそういうのってさ、気になるじゃん!」
俺日本人だもん!日本人だから気になるもん!と、良くわからない理由を主張する臨也。そんなもんですか?と首を傾げる帝人に向かって、言うのはこんなことだ。
「だからね!俺が来神通ってたころ、言い伝えって言うかジンクスっていうか呪い的な何かがあって・・・」
「屋上で告白すると別れる、とかってのですか?」
「・・・まさにその通り」
俯き加減に視線を落とし、胸の前で人差し指同士をつんつんしている臨也は、自分で言っていても自分の乙女っぷりに嫌気が差したのだろう、必死に言い訳のように付け足す。
「俺だって普段はそんなの信じやしないけど仕方がないじゃない。君と俺との間には一個でも、どれだけ馬鹿馬鹿しいものでも、何の障害もあってほしくないんだよこれ以上は。だって君がせっかく言ってくれるならそんな不吉な場所じゃなくてもっと、こう、さあ!」
分かってよ!っていうか分かれ!最後のほうは逆切れしつつそういう臨也の言葉に、まあそれも分からんでもないなあと思う帝人なのだった。しかし、それじゃあ一体何時になったら、お互いに言葉にできるって言うのだろう。
帝人は、睨みつけるように臨也の顔を見上げる。
言葉なんかなくたって、分かっている。お互いにどうしようもないくらいお互いが好きで、たまらないって事くらい。それでも臆病な2人には、どうしたって言葉が必要だ。言葉を人質に取らなければ、手を伸ばせない。本当に似たもの同士で嫌になってしまう。
「・・・もう、いいですよ」
はあっ、と大きくため息をついて、帝人はそのままくるりときびすを返す。急に学校に現れた臨也に嬉しくなって、天気もいいし学校内にいると明らかに怪しいからという理由で屋上に来て、さっきまでは本当に楽しく話していたのだけれど。
なんかもう、いろいろ、煮詰まってしまっている。これは良くない傾向だと、帝人は思う。少し、距離を置いてみるべきなのかもしれない。努力して必死になって近づいたけれど、多分、臨也と自分は今近すぎるんだ。そうに違いない。
そんなことを思いながら室内に帰ろうとした帝人の手を、後ろから臨也が掴んだ。


再び、一瞬の沈黙。


「・・・なんですか、この手は」
「こっちの台詞だよ。何で帰るの」
「フラグが折れたからですよ」
「もう一回立てるから帰っちゃだめ」
っていうかフラグってすごく雰囲気がない言い方やめてよ、とか何とか言いながら、臨也は帝人の手を引っ張る。結局屋上を後にして、そのまま階段を下りたすぐそこにある音楽室へと、まるで自分の家のような気安さでずかずかと踏み込んでいく。この人一応、部外者なのになあ。そんなことを思ったけれど、言ったところで何の意味もないことだけはわかったので、帝人は息を吐くだけにとどめた。
足を踏み入れた音楽室。
普段なら音楽部が活動していそうなものだが、今日に限ってしんと静まり返っているその部屋の、ピアノのところまで帝人を引っ張ってきた臨也は、おもむろにコートを脱ぐ。
「持ってて」
作品名:似たもの同士の僕ら。 作家名:夏野