こんぺいとう
あまい、あまいお日様。まんまるつぶつぶのお星様。しろいつぶに、あかいつぶ。あおにきいろにみどり、だいだいむらさき。小さな小瓶に詰め込んで、走り動くとからから鳴った。
ぴかぴかの小瓶を大事に抱えて、小さな足音は軽い足取りでトコトコ響いた。
■ ■
「こんごー兄様からのごほーびや!!」
金平糖が入った小瓶を大事に抱え、走るたびに着ているセーラーの裾をパタパタさせて榛名は小走りに廊下を進んだ。今日は兄の金剛からあまいあまい金平糖がもらえた。きらきらのお星様のかたちのそれを、宝物のようにみながら榛名は笑う。すると、曲がり角から人影が!
「わ、わわわ!!」
慌てて足を止める榛名。見えた大きな影には、間一髪ぶつからなかった。ほっと息を吐くと、頭の上から聞き慣れた声が聞こえた。
「廊下を走るのは危ないからおやめなさい。」
優しい声にそっと頭に手を置かれる。声の主がわかった榛名は、ばっと上を見上げて笑った。
「ひえい兄様!!」
ぱぁ!っと嬉しそうに笑う榛名に、比叡もつられて微笑んだ。次男の比叡は彼にとって金剛と同じくらい大好きな存在なのだ。すると、比叡が榛名の持っている小瓶に気づいた。
「…?榛名、それは…金平糖?」
兄が尋ねると、小さな弟はうんうんと頷いた。小さな手には少々大きいが、小瓶のなかには色とりどりの金平糖が入っていた。
「はい!こんごー兄様がごほーびにくれたんや!」
つい先程、金剛のお手伝い(正確には資料を届けるおつかい)をした榛名は「ユーに頑張ったプレゼントだよ」と小瓶に入った七粒の金平糖をもらったのだ。無論その時榛名が目を輝かせていたのは言うまでもない。
嬉しそうな弟を見て比叡も笑う。すると榛名は、瓶の蓋を開けると、一粒取り出して自分の前に差し出した。
「ひとつさしあげます!!兄様。」
その手にあるのはみどりの金平糖。
「え?でもいいんですか?」
「はい!!」
どうぞ。というと比叡はしばし考えながら、ありがとう。と受け取った。
「…そういえば、さっきは急いでどこへ行くつもりだったんだい?」
もらった金平糖を大事そうに眺め、比叡は目を細めながら尋ねた。走ってきた方向から、おそらく金剛の所から直接きたのだろう。しかし…どこへ?すると榛名がぎこちなく呟いた
「赤城や長門にやろうかと思って…。」
それで…。はしってしまったんや、ごめんなさい。弱々とした口調でぺこりと頭を下げる。
「…次からは気をつけなくてはダメですよ。」
ね?とまた榛名の小さな頭をポンポンと軽くたたくと、比叡はゆっくりと、廊下を歩いていった。
コツコツと響く彼の靴音を榛名は後ろ姿と一緒に見つめていた。
■ ■
「っつーことが、あったんや!」
「へー」
座り込んで力説する榛名に陸奥は興味がないような生ぬるい返事を返す。目線は本に向いたままだ。
「…聞いてるんか陸奥…。」
「おー…今日はやけにいい天気だよな-。」
ピシッ…。周りにいる者がすべて(一部除く)固まったなかで、ぺらりぺらりと陸奥が頁をめくる音が室内に鳴り響く…と
「お前…この陸奥!!聞いてるんか、こらぁ!!」
今にも陸奥に掴み掛かりそうな勢いの榛名をまぁまぁ。と必死に赤城が羽交い締めして止める。しかし肝心の陸奥は我関せずという風に本に目を落とし、頁をめくっていた。長門はというと、すごい形相で暴れる榛名に向かってけらけら笑っているが、どちらかに加勢する気はないようだ。
「む、陸奥さんもダメですよ。せっかくお菓子をもらったのにそんな態度は。」
「…。…わかったよ。」
赤城に論されしぶしぶ…とばかりではあるが陸奥は本に栞を挟み、榛名に視線を移す。すると、ふと陸奥の目が捉えたのは榛名の側にちょこんと置かれた小瓶。中には…
「それ、まだ誰かにやるのか?」
小瓶の中には赤と青の金平糖が二つ寄り添って入っていた。先程榛名がくれた金平糖を摘んで弄びながら聞くと、はっとしたように榛名は答える。
「あぁ!!そうや、あいつにわたすんやった!」
ばっと小瓶を掴んで立ち上がると、「悪いちょっと、わたしてくるわ!」と部屋を早足に出て行った。
「…あいつ?」
「あいつ…」
「あいつ…ですか。」
3人とも首をかしげるが、ふと思い当たる人が一人。榛名といつも口喧嘩をしているが、…だけどそれでも、彼の大切な…
3人で顔を見合わせ目線が合うとぷっと笑う。口に含んだ金平糖が甘く溶けながら、かりっと鳴った。
■ ■
「…あいつどこいるんや…。」
いつもは会うと口喧嘩してしまうが、こう見つからないと少々寂しい…気、も…
「だぁー!! 何を考えとんねん!俺ぇ!!」
ばんばんと壁をたたいて思考を止める姿はとても可愛…少々浮くが、幸いしたことに周りには誰もいないようだった。
ぜーぜーと火照った頬に落ち着きを取り戻そうと深呼吸をする。落ち着いたところでまた彼の弟を捜そうとすると…。
「ん?はるではないか。」
目の前には本を持った探し人がいた…。も、もしかしてさっきのあ、あれ…見られていないだろうか…
突然のことに固まってしまった榛名だが、はっと我に返ると慌てて口を開いた。
「おお、きり!さがしててたんやで!!お前がちょろちょろしとって見つからなかったんや。」
火照った頬を隠すように、少々笑いを込めて言い放つ榛名に霧島は一瞬呆けるが、すぐに戻り言い返した。
「ちょ…ちょろちょろなどしてないのである!」
「なにおー!」
そしてまたいつも通りに口喧嘩が始まろうとしたとき、はっとした榛名が慌てて霧島の前に手を出して口論を制止した。いつもとは違った対応にしばし混乱する霧島。
「ちょ、ちょっと待てや!そうやこんな事しにきたんやないんや!こんごー兄様からの贈りものをお前にも分けてやろうと思たんや。」
ほれ。と、にかっとわらう榛名の持つ小瓶の中身をみて目を輝かせる霧島。やはりこの二人…似ているのかもしれない。
「こ、金平糖なのである!」
ふふんと得意げに笑う榛名。さっきの口喧嘩はどこへやら二人は甘いお菓子に夢中だ。ほのぼのとした雰囲気が二人を包んでいたのだが…
ドンッ…と霧島の小さな体が揺れる。どうやら後ろからきた人がぶつかってしまったようだ。
「あ、あぁすまな…。…。」
ぶつかってきた男は、すぐに霧島にあやまろうと彼の顔を見た。しかし謝罪の言葉は途中で途切れた。男は霧島の顔を見た瞬間、あからさまな嫌悪を顔に出した。いや…正確には“顔”ではない、その瞳を見て嫌悪したのだ。
あおい、あおい…空色の瞳を。
そのまま立ち去ろうとする男を、がしっと掴んで怒鳴りつけたのは…榛名だった。
「おい!!あんた、ぶつかって謝りもしないんか!」
きりに…霧島に謝れや。小さな体をめいっぱい踏ん張らせて、榛名は男を怒鳴りつけた。小さな子どもに怒鳴られたことへか、顔を苛つかせ男は振りほどこうとするが、榛名は男の腕を離さなかった。
「おい、はる!もういいのである!!私は…。」
「あやまれ!!」
いよいよもって離れない榛名に、男はばっと手を榛名へ振りかざした。襲いくるであろう衝撃に榛名はぎゅっと目を閉じる。
しかし腕は榛名へ届かず、男の腕は宙で止まったままだった、そしてみしみしと男の腕を掴んでいたのは…
ぴかぴかの小瓶を大事に抱えて、小さな足音は軽い足取りでトコトコ響いた。
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「こんごー兄様からのごほーびや!!」
金平糖が入った小瓶を大事に抱え、走るたびに着ているセーラーの裾をパタパタさせて榛名は小走りに廊下を進んだ。今日は兄の金剛からあまいあまい金平糖がもらえた。きらきらのお星様のかたちのそれを、宝物のようにみながら榛名は笑う。すると、曲がり角から人影が!
「わ、わわわ!!」
慌てて足を止める榛名。見えた大きな影には、間一髪ぶつからなかった。ほっと息を吐くと、頭の上から聞き慣れた声が聞こえた。
「廊下を走るのは危ないからおやめなさい。」
優しい声にそっと頭に手を置かれる。声の主がわかった榛名は、ばっと上を見上げて笑った。
「ひえい兄様!!」
ぱぁ!っと嬉しそうに笑う榛名に、比叡もつられて微笑んだ。次男の比叡は彼にとって金剛と同じくらい大好きな存在なのだ。すると、比叡が榛名の持っている小瓶に気づいた。
「…?榛名、それは…金平糖?」
兄が尋ねると、小さな弟はうんうんと頷いた。小さな手には少々大きいが、小瓶のなかには色とりどりの金平糖が入っていた。
「はい!こんごー兄様がごほーびにくれたんや!」
つい先程、金剛のお手伝い(正確には資料を届けるおつかい)をした榛名は「ユーに頑張ったプレゼントだよ」と小瓶に入った七粒の金平糖をもらったのだ。無論その時榛名が目を輝かせていたのは言うまでもない。
嬉しそうな弟を見て比叡も笑う。すると榛名は、瓶の蓋を開けると、一粒取り出して自分の前に差し出した。
「ひとつさしあげます!!兄様。」
その手にあるのはみどりの金平糖。
「え?でもいいんですか?」
「はい!!」
どうぞ。というと比叡はしばし考えながら、ありがとう。と受け取った。
「…そういえば、さっきは急いでどこへ行くつもりだったんだい?」
もらった金平糖を大事そうに眺め、比叡は目を細めながら尋ねた。走ってきた方向から、おそらく金剛の所から直接きたのだろう。しかし…どこへ?すると榛名がぎこちなく呟いた
「赤城や長門にやろうかと思って…。」
それで…。はしってしまったんや、ごめんなさい。弱々とした口調でぺこりと頭を下げる。
「…次からは気をつけなくてはダメですよ。」
ね?とまた榛名の小さな頭をポンポンと軽くたたくと、比叡はゆっくりと、廊下を歩いていった。
コツコツと響く彼の靴音を榛名は後ろ姿と一緒に見つめていた。
■ ■
「っつーことが、あったんや!」
「へー」
座り込んで力説する榛名に陸奥は興味がないような生ぬるい返事を返す。目線は本に向いたままだ。
「…聞いてるんか陸奥…。」
「おー…今日はやけにいい天気だよな-。」
ピシッ…。周りにいる者がすべて(一部除く)固まったなかで、ぺらりぺらりと陸奥が頁をめくる音が室内に鳴り響く…と
「お前…この陸奥!!聞いてるんか、こらぁ!!」
今にも陸奥に掴み掛かりそうな勢いの榛名をまぁまぁ。と必死に赤城が羽交い締めして止める。しかし肝心の陸奥は我関せずという風に本に目を落とし、頁をめくっていた。長門はというと、すごい形相で暴れる榛名に向かってけらけら笑っているが、どちらかに加勢する気はないようだ。
「む、陸奥さんもダメですよ。せっかくお菓子をもらったのにそんな態度は。」
「…。…わかったよ。」
赤城に論されしぶしぶ…とばかりではあるが陸奥は本に栞を挟み、榛名に視線を移す。すると、ふと陸奥の目が捉えたのは榛名の側にちょこんと置かれた小瓶。中には…
「それ、まだ誰かにやるのか?」
小瓶の中には赤と青の金平糖が二つ寄り添って入っていた。先程榛名がくれた金平糖を摘んで弄びながら聞くと、はっとしたように榛名は答える。
「あぁ!!そうや、あいつにわたすんやった!」
ばっと小瓶を掴んで立ち上がると、「悪いちょっと、わたしてくるわ!」と部屋を早足に出て行った。
「…あいつ?」
「あいつ…」
「あいつ…ですか。」
3人とも首をかしげるが、ふと思い当たる人が一人。榛名といつも口喧嘩をしているが、…だけどそれでも、彼の大切な…
3人で顔を見合わせ目線が合うとぷっと笑う。口に含んだ金平糖が甘く溶けながら、かりっと鳴った。
■ ■
「…あいつどこいるんや…。」
いつもは会うと口喧嘩してしまうが、こう見つからないと少々寂しい…気、も…
「だぁー!! 何を考えとんねん!俺ぇ!!」
ばんばんと壁をたたいて思考を止める姿はとても可愛…少々浮くが、幸いしたことに周りには誰もいないようだった。
ぜーぜーと火照った頬に落ち着きを取り戻そうと深呼吸をする。落ち着いたところでまた彼の弟を捜そうとすると…。
「ん?はるではないか。」
目の前には本を持った探し人がいた…。も、もしかしてさっきのあ、あれ…見られていないだろうか…
突然のことに固まってしまった榛名だが、はっと我に返ると慌てて口を開いた。
「おお、きり!さがしててたんやで!!お前がちょろちょろしとって見つからなかったんや。」
火照った頬を隠すように、少々笑いを込めて言い放つ榛名に霧島は一瞬呆けるが、すぐに戻り言い返した。
「ちょ…ちょろちょろなどしてないのである!」
「なにおー!」
そしてまたいつも通りに口喧嘩が始まろうとしたとき、はっとした榛名が慌てて霧島の前に手を出して口論を制止した。いつもとは違った対応にしばし混乱する霧島。
「ちょ、ちょっと待てや!そうやこんな事しにきたんやないんや!こんごー兄様からの贈りものをお前にも分けてやろうと思たんや。」
ほれ。と、にかっとわらう榛名の持つ小瓶の中身をみて目を輝かせる霧島。やはりこの二人…似ているのかもしれない。
「こ、金平糖なのである!」
ふふんと得意げに笑う榛名。さっきの口喧嘩はどこへやら二人は甘いお菓子に夢中だ。ほのぼのとした雰囲気が二人を包んでいたのだが…
ドンッ…と霧島の小さな体が揺れる。どうやら後ろからきた人がぶつかってしまったようだ。
「あ、あぁすまな…。…。」
ぶつかってきた男は、すぐに霧島にあやまろうと彼の顔を見た。しかし謝罪の言葉は途中で途切れた。男は霧島の顔を見た瞬間、あからさまな嫌悪を顔に出した。いや…正確には“顔”ではない、その瞳を見て嫌悪したのだ。
あおい、あおい…空色の瞳を。
そのまま立ち去ろうとする男を、がしっと掴んで怒鳴りつけたのは…榛名だった。
「おい!!あんた、ぶつかって謝りもしないんか!」
きりに…霧島に謝れや。小さな体をめいっぱい踏ん張らせて、榛名は男を怒鳴りつけた。小さな子どもに怒鳴られたことへか、顔を苛つかせ男は振りほどこうとするが、榛名は男の腕を離さなかった。
「おい、はる!もういいのである!!私は…。」
「あやまれ!!」
いよいよもって離れない榛名に、男はばっと手を榛名へ振りかざした。襲いくるであろう衝撃に榛名はぎゅっと目を閉じる。
しかし腕は榛名へ届かず、男の腕は宙で止まったままだった、そしてみしみしと男の腕を掴んでいたのは…