さがす
見つからない。
見つからない。
見つからない。
私は焦った。
いいや、まだ、まだだ。
まだ、ここにあるはずだ。
私は諦めない。
そうだ、そうだ。
「・・・・・・隆さん。」
私はハッとした。あの声は・・・・・・
「百合子さん?」
見上げるとそこには百合子さんが立っていた。何故。こんなところに君が・・・・・・
「どうしたの?何を泣いているの・・・」
私は慌てて立ち上がった。百合子さんは泣いていた。
「隆さん。」
そう呼んだまま口をつぐんで黙ってしまった。
「いったい、どうしたの?こんなところに・・・・・・私を、捜しに来たのかい?」
あまりにも私が遅いせいで、迎えに来てくれたのだろうか。
百合子さんは無言で首を振った。
「・・・・・・隆さん。探し物は・・・・・・見つかりましたか?」
そうだ。私は捜していたのだった。
でも・・・・・・何を?
何を、さがしていたのだろう?
だけど変だ。考えようとすると靄(もや)がかかってその先を考えるのをやめてしまう。
私にとっては、とてもたいせつなことなのに。
考え込む私を百合子さんは涙で濡れた瞳で見つめて、
「あなたが探していた物はこれではないのですか?」
そういって何か小さい物を見せた。
「あっ、」
それを見た途端、私の脳裏にある情景がふっと浮かんだ。
靄(もや)が消えていく。
・・・・・・あの日、私はこの『指輪』を買って百合子さんの元へ帰る所だったのだ。
あぁ・・・・・・そうか、私はこの『指輪』を探していたのだ。
「君が持っていてくれたんだね?」
「隆さん」
「ありがとう、ありがとう。」
そうか。
そうだったのか。
だから私は、長いことここに留まっていたのだね。
そして、君はそのことで泣いていたのだね。
「ありがとう、百合子さん」
「!隆さ・・・・・・んっ!」
『陽炎』が静かに消えた。
女はその消えた方向に向かって名前を叫び、そのまま泣き崩れた。
「飯田さん。」
魔実也は女の細かく震える肩にそっと手を置いた。
「泣くことはありません。『彼』は救われた。貴女が救ったのですよ。」
そうして。
夕暮れ時に路地裏に現われるという『幽霊』は、いなくなった。
誰の噂話にもその話が出ることはない。
唯、一人の胸の内に仕舞い込まれた以外は・・・・・・
fin.