つくりものの温度
彼の指が、ぼくのくちびるにふれた。あのとき、したように、ぼくのくちびるを割った。ここにはクリームもなにもなかった。なのに、白くて淡い、甘ったるい味と、そして彼の指の温度、つくりものの温度を感じる。眩暈がして、胸が痛い。彼の指が口の中を這いずりまわり、ぼくをつくりものの感覚で満たしていく。
「きみは、とても巧いから。次はきっとうまくいくよ」
彼の指がぼくの口をざらざらとくすぐる。それは粘膜をなぜるだけで、ほかのものにすり替わらない。いつまでもつくりもののまま。
それでいいって、おもいはじめている。現実じゃなくたって、つくりものでかまわない。
彼のつくりものの感触に皮膚を支配されながら、つくりものの温度のことを、そればかりでぼくの頭はあふれそうにいっぱいになっている。