二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

つくりものの温度

INDEX|20ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 彼の指がぼくのくちびるにふれる。頬についたクリームをなでさすりやがてぼくのくちびるを割って、中に入ってきた。舌の上にクリームがこすられて、淡くとけた。味なんかしない筈なのに、甘い味が口のなかにひろがる。甘ったるい、味。これはほんとうにつくりものの感覚なんだろうか。現実じゃないか。ぼくは、つくりものの味とともに唾をのみこむ。
 つくりものを受け入れてしまった。つくりものがぼくの一部になる。
 ――行きはよいよい、帰りはこわい。
 もう、戻れない。そうカンナが、ここから出られないのなら、ぼくが。
「カ、ン、ナ――」
 彼が微笑む。彼の姿が歪む。ぼくの、後ろから声が聞こえる。
「ケンイチ」
 はかない呼び声。カンナの声をぼくは忘れていない。ぼくは振り返れない。
 ごめん、ごめん、ごめん。
「けんいち」
 カンナの声。ぼくはカンナの悲しみを消してあげたい。
 ぼくは呼吸をする。そして、ゆっくりと振り返る。
 カンナが悲しい顔をして微笑む。ぼくは、ほっとする。くちびるが動く。声は聞き取れない。カンナが、ゆがむ。ぼくは必死に腕を伸ばす。わずかに指先に感じた。温度だった。でもこれは、つくりもの、だ。
(わたしはもう生きてないもの)
 カンナの声がはっきりときこえた。
 ほんものじゃない。つくりもの、だ。つくりもの…つくりものの、温度。
 でもぼくは、つくりものでも、いいのに。

 幻がまぼろしのままで、途切れた。まるで電源を切られたテレビのように。

「失敗、だな」
 彼が軽く舌打ちする。ぼくは彼の足下にうずくまって、喪失感にふるえた。まるで冬のように、からだがぶるぶると震えた。
 今、手にふれようとしたカンナはつくりもの、だった。つくりものから、ほんものに、してあげられなかった。
「向こうが拒絶してきたな。安定していない。阻害要素があったか」
 彼はぶつぶつとつぶやいた。その半分もぼくにはただ呪文のようにしか紀子エア買った。
「……カンナ」
 ぼくは、藁にでもすがるように、彼にしがみついた。彼は、ようやくぼくを思い出したようで、しゃがんでぼくと視線を合わせた。
「ケンイチ君」
 彼が、ぼくの耳元でささやく。低くてざらざらした声。吐息は温いのに、それはまるで、つくりものの温度だった。
「だいじょうぶだ、次はきっとうまく行く」
作品名:つくりものの温度 作家名:松**