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嬉しいと悲しいの間に

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家族も故郷も何もかも壊した男、ファブレ公爵が憎い。取り澄ました顔の四つ年下の少年も、このまま育てば憎い仇になるのだと、父への憎悪と全く同じ憎悪を息子に持つことなんて簡単だった。仇相手に膝を折って頭を垂れる屈辱さえ、どんな負の感情も自分の故郷の人たちはもう持つことはできないと思えば簡単だった。その屈辱を新しい憎悪にすり変えるのも簡単だった。美しい屋敷。力に溢れた公爵。屋敷に入ってすぐ嫌でも目に付く家宝。使用人としての仕事を覚えるのも、働きながら目に入る全てのものを憎しみに変えるのも、剣の腕を磨くのも、何もかも簡単だった。上手く立ち回ったおかげで、公爵の息子の話し相手として仕えるようになっても、この子どもはいつか殺す子どもだという認識は変わらなかった。ファブレ公爵が笑いながら俺の全てを奪っていったように俺もそうできる。この屋敷にいる限り、俺は復讐を躊躇うことも、憎悪が揺らぐことも少しもない。確信するまでもなく、それは俺にとって全てだった。
 公爵の息子が誘拐されたのは、ファブレ公爵家だけでなく、俺にとっても予想の範囲外の事態となった。予想外の出来事だったと振り返れるようになったのは、しばらく後のことだ。この誘拐はマルクトによるものではないかという推測が使用人の間でさえも飛び交い、白光騎士団だけではなく、キムラスカ軍も捜索に加わった。公爵家の古い別荘で発見されるまで、屋敷の隅から隅まで緊迫した重々しい空気だった。珍しく苛立ちや焦りといった感情を露骨に顕わにする公爵の姿に、もしこの誘拐がマルクトが首謀のものならば、俺の復讐に祖国によって水を差されたなと内心苦々しく感じてはいた。それから少しして公爵家の息子は、憎き仇のよくできた模造品のような息子は、記憶も言葉も何もかも失くして戻ってきた。名前や親の顔どころか、歩き方さえ覚えていない。まるで赤ん坊のようだと、メイド頭が溜め息をつくのを聞いた。そんな話を聞いても、信じられなかった。想像がつかなかった。生まれたての子どもを、あまり見たことがなかったのだ。妹も弟もいなかったし、公爵家には子を成す使用人などいなかった。 ……生まれ育った家では、一番の幼く弱い子どもが自分だった。
作品名:嬉しいと悲しいの間に 作家名:鼻水太郎