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嬉しいと悲しいの間に

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 公爵の息子が救出されて、十日程経った頃だった。何をどうしても様子の戻らない子どもに、年が近く気安かったお前なら何か変化があるかもしれないと、公爵夫人に乞われ、記憶を失った公爵家の子息と会った。何の感情さえ入っていない眼で見られたのを今でも覚えている。そこには怯えも恐れも喜びも何もなかった。その赤い髪も、こちらを見たその緑の瞳も変わらないのに、何もかもが変わってしまったような気がした。乞われるままその部屋を毎日訪れるうちに、人形のようだった姿に少しずつ変化が現れた。自分以外の他人を認識し始めて、表情も変えるようになったし、意味を成さなくても声も出すようになった。大人の姿には恐れるような素振りを見せ始めた。自分より姿かたちの大きすぎる人間の姿は、誘拐時のショックを思い出させるのではないかというもっともらしい公爵夫人の言い分のおかげで、本当に乳母のような真似をするはめになった。生まれたばかりの子どもがどんなものか見たことさえなかったのだ。どういう風に扱えばいいかわからないことばかりだった。
 食事を与えて、着替えをさせて、寝ている時以外は目を離さない。そんな生活は慌しく、暗く底のない自分の憎しみを確認する暇もなかった。疲れて夜中に自分のベッドへともぐりこんだ時に思った。ある日、急に記憶が戻ったりしないだろうか。自分がスプーンで食事を与えてる時でも、着替えの手伝いをしてやってる時でもいい。あの矜持の高かった少年が、どんな顔をするのか。そんな薄暗い考えもそこそこに、いつもすぐ眠りに落ちていった。
作品名:嬉しいと悲しいの間に 作家名:鼻水太郎