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嬉しいと悲しいの間に

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 感情も何もかも失くした小さな存在が、少しずつ取り戻していく姿をずっと見てきた。

 ルークを気遣っている。優しくしている。根気強く何でも教えてやっている。ずっと、ずっとこんな事を続けていると、それは俺の中、心の奥深くまで入ってくるんじゃないか。少しづつ成長する姿に暖かさを、記憶もなくし、外へと出られなくなった事を不憫だと、そんな事ばかり思っていたら、この憎悪はいつか薄れてしまうんじゃないのか。憎しみとは真逆の感情が、この一年間するりと心に入ってきていた。それに気付かないでいた。いつだって俺のすぐ傍にあった。目の前の子どもはいつか殺すのだというそれが遠くに感じられた。俺はいったい何をしている?本当に今の今まで気付かなかったのか?
「……ルーク」
「なんだよ」
 早く思い出してくれないか。昔の記憶を。そう言おうとして、口をつぐんだ。
「お前、腹でも痛いのか?」
「……いいや、大丈夫だ」
 気遣うような声も視線も、お前の名前さえも、何もかもが憎いはずなんだ。……でも全て俺が教えてやったんだ。息を深く吸うと、顔を上げて、いつも通りに見えるように笑った。不思議そうな顔をしているルーク。この程度の失態、ルークだけなら笑って取り繕える。今は他の誰にも見られなかったことを感謝するべきなんだ。俺の憎しみの行方なんて気にしてる場合じゃない。もう二度と、誰にも。こんな少しの綻びさえ見せることはない。ルークも公爵もラムダスも皆、俺を信用すればいい。そうすればする程、俺の本来の目的は容易くなる。だからこの存在の成長を見守ることも、手を貸すことも、決して意味のないことじゃない。そう思った。
作品名:嬉しいと悲しいの間に 作家名:鼻水太郎