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【ヘタリア腐】同化【紅色同志】

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 目の前に広がる見事なグラデーションを、イヴァンは眺めていた。
 壁の暗(くろ)、屋根の臙脂(えんじ)、雲の朱、空の緋―――整然とした町並みが、真紅の夕日に染め上げられる。それは、独り占めするのが勿体ないぐらいの美しさだった。

 ―――いや、独り占めではなかった。

 ふと、横を向くと恐ろしく長い廊下の少し先、等間隔で並んだ巨大な柱に隠れるようにして佇む、小さな人影があった。
 空と同じ色の着物に身を包み、自分と同じようにこの光景を見つめる彼は、この地の主であり、その上に住まう民の象徴であり、国そのもの―――世界の中心と称するこの国の化身。……そう、自分と同じように。

 「耀くん」

 イヴァンは、彼に与えられた名を呼んだ。琥珀の瞳が、こちらを向く。
 「……なんでお前が、我の家に居るあるか」
 「第一声がそれって、酷くない?」
 彼の返答によって機嫌を更に損ねたらしく、耀は顔を背けた。
 「大丈夫、許可は貰ってるから」
 遅れてそう答えると、小さく鼻を鳴らす音が聞こえた。気に入らないときのクセ。こうなったら、彼は意地でもこちらを向かない。
 「綺麗な夕暮れだね」
 話題を変えた。このままでは、誰に会いに来たか解らないから。ついでに、イヴァンは場所を移動した。
 「さすが、『世界の中心』って自称するぐらいのことはあるよ。日が落ちる時まで綺麗だもの」
 そう言って彼の横で微笑むと、肩に下ろした漆黒の髪の隙間から、鋭い視線が返ってきた。
 「……その言い方、気に食わねぇある」
 「あ、ごめんね」
 素直に思ったことを口にするものではない。微笑みを苦笑に変えて、イヴァンは再び夕日のグラデーションに目を移した。

 「そういえば、王様はどう?」

 耀の目つきが更に鋭いものに変わった。「皇帝ある」と、訂正した口調も冷やかだった。
 「お前には関係無いことある。とっとと帰るよろし」
 「心配してるのに」
 「うるせぇある」
 どうやら、自分は彼の機嫌を損ねるスペシャリストらしい。実際の距離は縮まったものの、心の距離は広がる一方だ。彼は二度と自分の方を見まいとするかのように、ツンと前を向いたまま視線さえ動かさない。イヴァンはその様子を見てふっ、と息をついた。
 「調子、悪いんだってね。もう長く無い、って聞いたから」
 そう、イヴァンが耀の家を訪れたのは、耀の上司を見舞うためだった。お互い家が隣同士なので、何かと会う機会がある。友好的な関係になっておいて損は無い、という上司の考えからだった。イヴァン自身はそれが個人的なものであっても良い、とは思っていたが。
 「耀くん、悲しいんじゃない?」
 共に同じ景色を眺めながら、イヴァンは問い掛けた。
 「だから、慰めてあげようと思って。どう?その必要はあるかな?」
 イヴァンが何気なく言った言葉に、今まで無関心を装っていた耀が動いた。自分より遥かに背の高いイヴァンの胸倉を掴んだ。

 「黙るよろし。イヴァン」

 夕日の朱を宿した琥珀の瞳が、はっきりと自分を映しているのをイヴァンは見た。燃えるようであり、冷たいナイフのようなその瞳を。

 「悲しい?愚問ある。我が主であり、愛すべき一人の民の死を、悲しいと言わず何と言うあるか。それとも、我が涙も流さぬ冷たい心の持ち主だと、お前は言うあるか」
 
 その細い腕で彼の身体を揺さぶり、耀は叫んだ。
 「お前はどうあるか、イヴァン。己の主を……一人の民を失って、悲しくないと言えるあるか。そんな血も涙も無いことを、言えるあるか」
 耀からの問い掛け。それを聞いて、彼は冷静に燃える瞳を見つめ返した。

 「……それじゃあ、僕も聞くけど」

 静かにイヴァンは口を開いた。同時に、彼の腕を掴んだ。

 「そこまで悲しいと思っているキミが、どうしてそんなことをしているの?」

 耀の動きが止まる。驚きに見開かれた目から、急速に火が消えてゆく。胸倉を掴む腕が微かに震えていた。
 「ちょっと、ごめんね」
 その腕を逃げられないようしっかりと掴み、イヴァンは彼を引きずるように歩きだした。幸い、すぐ近くに小部屋があった。誰にも見られていないことを確認して、イヴァンは部屋の扉を開けた。中は小さな窓から外の色を貰い受け、薄い朱に染められていた。その中にエスコートとは言い難い力で耀を引き入れ、素早く錠を下ろした。
 「イヴァン、お前……」
 やっと我に返った耀が扉に駆け寄り、錠を開けようとする。悲鳴にも似た鉄の音が、部屋に響く。だが、イヴァンは壁に手をつき、その身体を腕の中に閉じ込めた。

 「……血の匂いがする」

 背後から囁くようにイヴァンは呟いた。その言葉に、鉄を掻くような音が止む。
 「さっきから、ずっと気になってたんだ。そばに近付いた時から」
 項にかかった髪がはらり、と前に落ちる。それが合図だったかのように、イヴァンは彼の着物の衿を下ろした。徐々に露になったのは、肌よりも白い布で覆われた細い肩。
 「肩だけじゃないよね。腕と……脇腹もそうだね」
 肩からゆっくりと手を滑らせ、耀の身体に探る。同じ状態になっているであろう箇所に手が触れると、幾重にも重ねた着物の上からだというのに、彼の身体が電気を流したように震えた。

 「どうしたの、これ」

 耀が反応した箇所を脳内で反芻しながら、イヴァンは問い掛けた。自分の中で渦巻き、爆発してしまいそうな感情を出さないように。
 「こんなことをしても無駄だ、って一番解ってるのは僕らじゃない。それなのに、キミは―――」
 「解っているある!」
 腕の中で耀が叫んだ。
 「解っているあるよ、そんなことぐらい……っ」
 彼は泣いているかのように、肩を震わせた。
 「それでも……それでも、我に縋る民を見捨てることができなかったある。できるわけがないある……」
 イヴァンは震える肩に触れた。なぞるように指を動かすと、不自然に窪んだ箇所があった。
 「こうやって偽りの希望を与える方が、よっぽど残酷だよ。耀くん」
 肩に巻かれた布を外すと、えぐったような傷が現れた。下手をすれば、骨まで見えそうな傷だった。日にちが経っているのか、すでに血は乾き、塞がり始めている。それでも、それは生々しい緋色に染まっている。『ヒト』と同じように流れる血の色に。

 「僕たちは神様じゃないんだ」

 傷を見下ろしながら、イヴァンは呟いた。何を食べたわけでも無いのに、苦さが広がった。
 耀は懇願されたのだろう。千年以上もの長い時を変わらず、老いず―――死なずに生きる、その身体をくれ、と。不老長寿の力が欲しいと、その愛すべき民の一人が願ったのだろう。忌の際の身体を震わせ、涙を流して。彼の脳裏にははっきりと共に涙し、自分の身体を傷付ける耀の姿が思い浮かんだ。

 だが、自分たちにそんな力は無い。老いることが無いなど、嘘だ。死なないなど、嘘だ。ヒトが羨む不老長寿は、むしろ彼らの手によって支えられているものだ。慈しみ、共に生きてくれるヒトが居るからこそ、存在できるのが『自分たち』なのだ。ヒトに支えられた存在なのだ。なのに―――

 「……もしかしたら、と思ったある」

 か細い声で彼は言った。