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【ヘタリア腐】同化【紅色同志】

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 「お前より、他のヤツらより長く存在している我なら……我なら、不老長寿の力を与えられるかもしれない、と。そう思ったある。病に侵されながらも身体を引きずり、我に縋るアイツを救えるかもしれないと……思ってしまったある……でも、」

 耀は大きく天を仰いだ。

 「それが叶わないと知った今は……酷く胸が痛いある……張り裂けそうに、痛いある……っ」

 天を見上げた琥珀が滲んだ。それでも泣くことだけは堪えようと―――自分の犯してしまった罪を流すまいと、彼は唇を強く結ぶ。花の色をした、その小さな唇が白くなるぐらい、強く。長い時を生きながら、その様はまるで無垢な子供のようだった。

 「もういいよ……」

 そう呟くとイヴァンは、琥珀の瞳を手で覆った。耀の顔より遥かに大きな掌は、潤んだ瞳をすっぽりと隠した。その大きさにイヴァンは感謝した。
 「耀くんは、泣いてなんかいない。自分の罪を忘れてなんかいない。だから、だからね―――」
 手の甲に、イヴァンは口づけた。
 
 「もう、いいよ」

 それが合図になったかのように、耀が大きく嗚咽した。覆った瞳から次々と溢れるそれを感じながら、自分の冷たい掌はちょうどいいと思った。

 「そう言えば僕、キミの質問に答えてなかったね。『自分の民を失って、悲しくはないのか』って」

 静かにイヴァンは言った。

 「その答えは『NO』だよ」
 
 そう答えるのが当たり前だ、と言わんばかりに彼は言った。
 「……他の国の支配を受けた時期は、上司を恨むこともあったよ。けど、身分なんて関係ない。全ての民を愛し、慈しむ―――それが『僕ら』でしょ?」

 はっきりと、イヴァンは告げた。
 ―――そう、自分も同じだ。自分の民を誰よりも愛し、大切に思っている。だから、己の身を削ってまで民を救おうとした耀の気持ちは、本当は痛いほど解っていた。
 「……けど、僕は耀くんと同じことはしない。僕はあげることより、貰う方が好きだから」
 イヴァンは耀の身体を見下ろした。細い身体。その肩にできた、己を犠牲にした傷。普通の身体ならば、治っても痕になりそうなほどの傷だ。けれど、自分たちは違う。よっぽどのことでは無い限り、身体の傷はすぐに塞がる。痕など残らない。しばらくすれば消えてしまう。

 でも、心には残るのだろう。今感じている痛みは、その見えない傷は。

 それならば―――

 「その痛みも、ちょうだい」

 そう言って、イヴァンは肩の傷に唇で触れた。乾ききった傷口を舌でなぞった。痛みが走るのか、耀の身体が跳ね、拒絶するように小さく枯れた悲鳴をあげた。それでも、その周囲に歯を立て、傷口を舐めた。痛みも、傷痕も奪うように何度も、何度も。
 やがて唇を離すと、乾いていた傷に血が滲んでいた。鮮やかなその色は、先程見ていた夕日と同じ緋色だった。
 ふと、脳裏をある記憶が過ぎった。空を見上げる、目の前の震える小さな背中が。

 「苦しかったなら、苦しいって言ってくれれば良かったのに……」

 再び舌で溢れた血を舐め取ると、その肩に彼は額をつけた。鉄の苦みが口内に広がった。

 (あげることも出来なければ、貰うことが出来ないものもあるんだ)

 触れ合った肌から、耀の震えが伝わってきた。悲しみによる震えがどれくらいのものなのか、自分の行為に対する震えがどれくらいなのか、知ることはできなかった。

 「……本当に、思うよ」

 消え入りそうな声で、彼は呟いた。また、彼の身体が震えたことが悲しかった。

 (僕のものになってくれれば良いのに、って)

 あえて口には出さず、彼はいつもの台詞を飲み込んだ。言ったところで―――例え、叶ったところで彼の痛みも苦しみの少しさえ、解ってやれないような気がしたから。

 「結局、僕も同じだね」

 そう言って、イヴァンは彼の身体を抱きしめた。きつく抱きしめると、彼の鼓動がすぐそばにあるように感じて、少し安らいだ。結局は、違うと解っていたけれど。

 窓の外に夕日はもう無いのか、部屋は暗い。その中でイヴァンは、腕の中の鼓動と一体になろうと、目を閉じた。

 ―――今はそれで良かったから。