赤い糸
不意打ちの口付けを頬に受けて、プロイセンは笑った。大きな背を抱き締め、鼓動を重ねる。自分達は別々の人格でありながら、やはりひとつなのだと、こんな瞬間、感じるのだ。
触れていると、たまらなく安心する。
だが、同時につきりと胸が痛んだ。ドイツの横顔に視線を奪われた時と、同じ痛みだ。プロイセンはわざと気付かないように、背を抱く腕の力を強めた。
「兄さん?」
「やっぱり、一緒に寝るか?」
回答よりも先に、厳しい顔で眉を寄せるドイツに、プロイセンは声を上げて笑った。弟は子ども扱いされると、いつもこんな顔をする。
「子供扱いしないでくれ」
「子供だから一緒に寝てたわけじゃねえのによー」
「兄さんのほうがまるで子供だ」
「あ、ひでえ」
「酷くて結構。さて、俺は寝る。兄さんも、おやすみ」
「おうおやすみ。明日はお前の時間に合わせて俺も起きるから、先に出てくなよ」
離れ、扉に向かったドイツが、ノブに手を掛けながら振り返る。
「良いんだぞ、寝ていても」
「独りの朝は寂しいじゃねえか」
驚いた顔をした後の、短い感謝の言葉に、プロイセンは気を良くした。
去る気配を追いながらベッドに丸まり直したプロイセンは、ふと、先程気になった引っ掛かりを再び思い返した。
「あーまじで思い出せねえなあ」
確かに何かを思い出し掛けたのだ。些細なことなのか、大事なことなのか、そこはさっぱりわからない。だが、ドイツを見て、何かが心を過ぎった。
プロイセンはシャツを握り締め、胎児のように体を丸めた。
「おちつかねえ」
ベッドの中をごろごろと寝転がり、プロイセンは天井を見つめた。
「まあ、いいか。大事なことならまたヴェストの顔見てりゃ思い出すだろ」
あっさりした性格のプロイセンは、悩みをとっとと棚に上げると、分散した眠気を拾い集めた。
シーツに体温が移るまでには時間がかかったが、ふと、その温度がドイツの体温に重なり、プロイセンはむずがゆく体を丸めて目を伏せた。