赤い糸
「大丈夫だって、お兄様を信じやがれ。ほら、お前ももう寝ろ。寝坊しても知らないぜ」
何か言いたげなドイツを、プロイセンは笑って追い払った。
「兄さん」
だが、離れ際に、ドイツは焦ったように、プロイセンを呼んだ。
もう寝ようと体を丸め直していたプロイセンは、少し考え、眼球をきょろきょろと動かしてから、上半身を起こした。
「ヴェスト?」
ドイツは拳を握り、何かを言い掛けて、止める。
「どうしたんだよ、眠れないのか?」
再度プロイセンは問い掛けた。
ドイツは思いつめた顔をしている。何がドイツを不安にさせるのか、プロイセンも理解していた。ドイツの望む、過去のような強い兄であることが、今のプロイセンには難しい。
だから、ドイツは時折、ひどく不安そうな表情を浮かべる。今もそうだった。おかしなことを言い出したプロイセンを不安に思っているのだろう。
どうすれば不安を取り除いてやれるのか、わからない。プロイセンに出来るのは甘やかされることと、精一杯明るく振舞うことだけだ。
プロイセンはプロイセンでしかない。過去と現在の隙間を、今はゆっくりと誤魔化しながら埋めている最中だ。ドイツもそれがわからないほど、もう子供ではないはずだ。
上手くいかないな、とプロイセンは思った。
「ヴェスト」
「すまん、なんでもないんだ」
なんでもない、と言いつつ、ドイツは何かを言いたげだ。
プロイセンは瞼を伏せ、開きながらドイツを見つめた。
「おいで、ヴェスト」
「にい、さん」
手招くと、ドイツは一度だけ戸惑ったものの、ふらりと酔ったような足取りでプロイセンの元へ戻った。いいこだ、と茶化すと、ドイツは笑もうとして失敗した。
元々嘘などつけない実直な性格なのだから、無理などしない方がいい。だが、この不器用さも、愛おしい。
「ほらしゃがめ。良く眠れるようにおまじないも兼ねてな。久しぶりだろ?」
ドイツの硬い皮膚を指でなぞり、肩を優しく掴む。驚いた顔をするドイツに横目で笑ったプロイセンは、恭しく両の頬へと乾いた唇を押し当てた。
風邪を引いていた所為で、今朝までお預けしていたのだ。
「兄さん……」
「これで悪い夢も見ねえよ。おやすみ、ヴェスト」
「……俺からも、兄さんに」