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「 拝啓 」 (最終話)

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貴方がいない世界が嫌い
貴方に縋るくせに、貴方を追えない自分が 嫌い


貴方はどうして、こんな僕を愛してくれたんだろう


そんなことばかりぐるぐると考えていて、気がつけば夜は過ぎ、朝の九時も過ぎていた
洗面所の鏡で確認すれば、泣き腫らした眼が微かに赤くなっている
赤みがかったそれはあの人を否応なしに思い出させるが、もう涙は出なかった
枯れてしまった、と言う方が正しいかもしれない
それほどまでに昨日はただ只管に泣いていた


冷たい水で顔を洗って、階段を降りキッチンへ向かう
冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを口に含んだ
痛みを孕んでいた咽喉が潤みを帯びて、痛みが少し治まる
一つ、息を吐きながらソファーに沈み込んだ


電源の入っていないテレビに、情けない自分の姿が映っている
その姿が酷く滑稽で、僕は口を歪めて小さく哂った


馬鹿みたい、馬鹿みたいだ
あの人はもういないのに、僕は生きていて
かと言って死ぬことも出来なくて
結局馬鹿みたいに泣いて、また朝を迎えただけだ


(……僕は、どうしたらいいんだろう)


ふと思った問い掛けに、勿論答えが返してくれる人はない
また頭にあの優しい声が、笑顔が過ぎって、また泣きたくなる程苦しくなって
声を出そうと、名前を呼ぼうと口を開けると、ひりひりと痛む咽喉に顔を顰めた


「…い、ざ……さ…ん」


最早これでは“好意”ではなく“依存”だ
弱い、情けない、みっともない
そんな感情で胸がいっぱいになって、前のめりになって胸元を掻き毟るようにシャツを握り締めた


「……いざ、や…さんっ」


その時、


広い広い空間に、無機質なインターホンの音が 響いた






「……?」


ぐちゃぐちゃしていた意識が少し覚醒する
ゆっくり立ち上がりインターホンについているモニターで相手を確認すると、見知った宅配の業者のお兄さんだった
一体誰からの荷物だろう、そんなことを考えながら覚束無い足取りで玄関に向かった


黒く重いドアをそろりと開けると、お兄さんが「あっ、」と顔を上げた
片手でそれ程大きくくもない段ボール箱を抱えている
如何にも爽やか、といった表現が似合うお兄さん人は、短い挨拶の後さらりと耳を疑うようなことを述べた




「こんにちは、えっと…“折原帝人”様宛てのお荷物です」




(………は、い?)


――聞き間違い、そうだと思った
今このお兄さんはなんと言ったか
己の耳が正常ならば、間違いでないのならば、先程告げられた名前は――


「あの…どうかしました?」
「っあ、あの、いえ…すみません」


眼を瞠ったまま固まった僕を見て、お兄さんが不思議そうに瞳を瞬かせている
慌てて返事をして受け取りのサインを済ませると、お兄さんは「ありがとうございましたー」と笑顔で帰っていった


―ばたんと背後でドアが閉まる
それを遠くに聞きながら、僕は両手で段ボール箱を抱えて部屋に戻ると、力は抜けたようにソファーにどさっと座り込んだ
思った以上にずっと軽い段ボール箱に貼り付けられた紙の宛名を恐る恐る確認する
“折原帝人”、間違いなくそう綴られた綺麗な文字


そして、


「い、ざ…や…さん、」


送り主の欄に書かれた “折原臨也” の名前に、それこそ僕は刹那の間、呼吸をするのも忘れてしまった