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「 拝啓 」 (最終話)

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そんな出だしから始まった一番最初の手紙
まさか臨也さんがこんなことを考えていてくれたなんて思いもしなかった


僕は時間が経つのも忘れ、次々に封を開けては無我夢中に手紙を読み続けた
手紙に溢れるのは今日食べたもの、見たもの、仕事の愚痴や不満
恐らくその日に交わしたメールや電話の内容た
その中でも特に見かける自分の名前
僕を心配してくれていたり、気に掛けていてくれたりもしょっちゅうで
どの手紙も最初は「大好きな帝人君」で、終わりは「早く会いたいよ」で


「……臨也さんってば、」


いつも無機質なパソコンのキーボードを叩き、冷たいナイフを握っていたあの手にペンを持ち
面倒事を嫌うあの人が、毎日ずっと僕に対して手紙を書き続けてくれていた
そんなことを思い出して、胸中に溢れ出すのは紛れもない嬉しさだった





――日も大分傾き、時間帯も夕方に差し掛かる頃
手紙は残すところ、後一通となっていた
手紙を持つ手が、小さく震えていた


(…これを読み終わってしまったら、)


読み終えてしまったら、臨也さんとの繋がりが消えてしまう気がした
だって、これが最後なのだ
臨也さんが僕に残してくれた、最後のものなのだ




だから、だから、だから、でも




臨也さんのさいごに、僕は会うことは出来なかった
触れること、話すこと、なにも出来なかった


だからせめて、臨也さんが帰ってくる前になにを思ってこの手紙を書いてくれたのか
僕は、それが知りたかった




「臨也…さん、」


ゆっくり、封筒の封を切る
便箋を取り出し、広げる音がやけに大きく響く
ごくり、と唾を飲み込んで、広げきった便箋の、そこに綴られた文字を読み始めた