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まるてぃん
まるてぃん
novelistID. 16324
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謀略の砦 ~7 years ago~

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その日、クールーク皇国の王城の一室で、この国の行く末を担う重大な事柄が密やかに決定された。
本来ならば皇王のもとで、大々的に話し合われるべき事柄である。
だが、長き年月のうちに皇王の存在は象徴化し、現在この国の政務を実質的に執り仕切っているのは、「中央委員会」と呼ばれるごく一部の大貴族が占める機関だった。
中央委員会も決して一枚岩というわけではなく、いくつかの派閥に分かれており、今では国そのもののことよりもお互いの足を引っ張り合うことに余念がない。
今夜の密談は、その中でも特に権勢を誇るアウル家を中心とした貴族達の間で行われた私的なものであった。だが、ここで決定したことは、そのまま政府の決定事項として扱われるだけの権限がある。
彼らの間で話し合われたのは、近年の政策で前面に浮上するようになってきた群島諸国制圧のための南進政策についてだった。
長年続いてきた東の隣国である赤月帝国との戦争のおかげで、国力は衰え民は疲弊し切っている。
一度は赤月帝国と休戦協定を結んだものの、それも六年前のある事件をきっかけに反故となり、今でこそ戦況は停滞しているものの、またいつ大規模な正面衝突が起こっても不思議ではない状況だ。そしていざ戦争となれば、まず問題となるのは兵糧であり、そうなれば、ほぼ確実に食糧難に苦しむのは目に見えていた。
これまでも何度か南の群島諸国を植民地化する南進政策の案は取り沙汰されたが、実際にはその案は浮かんでは消えていく有名無実のものでしかなかった。
案が具体化しなかった要因はいくつか挙げられるが、一番大きな理由は海を挟んで南西に位置するガイエン公国の存在である。
クールーク皇国とほぼ拮抗した勢力を持つこの国は、お互いに群島諸国を挟んで牽制し合う仲だった。クールーク皇国が群島諸国制圧のために動けば、ほぼ間違いなくガイエン公国も軍を差し向けてくるだろう。
そのためにこれまでは群島諸国に手を出せずにきたのだが、だからといってこのまま手をこまねいていては、いずれ赤月帝国に滅ぼされる運命が待っているだけだ。
そこでクールーク皇国の中央委員会は、ひとつの案を捻り出した。
それは自領地の中で最も群島諸国近くに位置するエルイール地方に、堅固な要塞を築くことであった。
これまでは対赤月帝国に向けて砦は東方ばかりに密集していたが、本格的に群島諸国制圧に乗り出すのならば、南方にも艦隊を駐留させるための要塞を築かなければならない。
それも半端な砦ではいけない。ガイエン公国が攻めてきても持ちこたえられるだけの半永久的に堅固な要塞だ。

かくしてクールーク皇国の南進政策は、具体的にその一歩を踏み出すことをここに決定した。
だが、問題は要塞が完成するまでの間、誰がその地の守りに就くかということである。
わざわざこちらの要塞ができあがるまで、ガイエン公国がのんびりと傍観を決め込んでくれるはずがない。
彼らにとっては脅威となるに違いないこの要塞を完成前に潰すため、ほぼ間違いなく敵は艦隊を差し向けてくることだろう。
ここでクールーク皇国側は、壁にぶつかることになる。彼らには、ガイエン公国からの攻撃を阻止するための艦隊を駐留させるべき要塞がない。何せその要塞そのものを、これから造ろうとしているのだから。
また、東の赤月帝国への警戒をゆるめることもできず、となれば必然的に要塞警護のために配置できる兵の数は限られてくる。さらに、そのうち海戦に臨める者となると、たった一隻の艦で収まってしまうくらいなのだ。
もし敵が二隻でもって攻めてきたら劣勢に追いやられることになり、三隻以上ならばほぼ間違いなく全滅する。
要塞警護の責任者となる者は、地位だけを見れば「地方司令官」などという大層な肩書きがつくが、実際は要塞を守るための盾代わりであり、要するに単なる捨て駒でしかなかった。
そんな死を約束された土地へ、いったい誰が赴きたがるというのだろう。
クールーク皇国の首脳部達の間で、エルイール地方に要塞を築くことは決定されたが、問題はその「地方司令官」に誰を任命するかであった。
ただの一般兵士というわけにはいかない。確かに捨て駒には違いないが、曲がりなりにも司令官職に就くのならば、それなりに名のある貴族でなければ示しがつかない。
体面を取り繕うことばかりに慣れた貴族達は、どんな時でも虚栄を張ろうとする。
そのために今回ばかりは、自らの首を絞める結果となった。
誰もが己に火の粉が降りかからぬようにと口を閉ざす。
そんな時、ひとりの男がこう言った。

その任に適役の者がひとりいますよ―――と。



「トロイ殿、お待ちくだされ!」

軍の訓練所のある中庭へと続く渡り廊下の一角で、コルトンは捜し求めていた人物の姿を見つけて声をあげた。
足早にその場を通り過ぎようとしていた人物は、呼び止められて振り返る。
まだ二十歳そこそこのその青年は、切れ長の黒い目を細めて、コルトンを見返した。
トロイ・ランバード―――クールーク皇国の海軍第一艦隊に所属する艦ラケシス号の艦長である。
それに対してコルトンは、海軍第二艦隊の副司令官を務める身であった。所属艦隊こそ違うが、軍内での地位としてはコルトンのほうが圧倒的に上位の立場である。
トロイはコルトンに対して恭しく敬礼したが、何も知らない者がはたから見れば、まるでトロイのほうが上官のように見えたことだろう。どことなくトロイには、人に命令することに慣れた者特有の雰囲気があり、対してコルトンは、この息子ほど歳の離れた相手に対して敬意を表していた。
実際にコルトンにとっては、彼は実の息子のような存在である。この青年は、並みいる貴族達の中でもコルトンが唯一尊敬と友愛を持って接していた友の忘れ形見であった。
コルトンに多大な影響を及ぼしたその人物も、今ではもう故人となって久しい。彼と最後に交わした約束を守るためにも、コルトンは今ここでトロイに問い質さねばならないことがあった。

「トロイ殿。今、私のほうにも報告が届きましたぞ。エルイール要塞に関する件です―――」

コルトンの言を遮るように、トロイが視線をすべらせる。
コルトンも周囲の気配を素早く探り、誰もその場にいないことを確かめると、やや離れた位置にある建物の陰へとトロイを誘った。
青空のもとから光の遮る物陰へと身を滑り込ませ、トロイがわずかに目を細める。光と陰のコントラストに、一瞬視界を奪われたのだろう。
コルトンがつかんでいたトロイの袖を離すと、トロイは服によったしわを伸ばしながら溜息のような声をこぼした。

「何用ですか。このような所に連れ込んで」

その物言いに、コルトンは眉間に軽くしわを寄せた。

「冗談でもそのようないかがわしい物言いはせんでください」

コルトンの忠告に、トロイが軽く眉を上げてみせる。コルトンは、若者のこのような仕草は彼の父親にそっくりだと思った。
―――冗談なのか本気なのか、にわかには判別がつきにくい。