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合宿三日目、午前2時。

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熟睡している村越の腕の拘束力が弱かったこと、毛布とシーツの二枚の布に包まれていたことが幸いした。ぐるりと体を反転させると、まるで蓑虫がその身を守る蓑を脱ぎ捨てるように吉田の体はすっぽりと毛布の莢から抜け出すことができた。
「うう……これ、室温設定が低過ぎやしないかい?」
これじゃ、ザッキーも毛布おばけになるはずだよ。
毛布の外装が剥がれた素肌に、些か行き過ぎた空調がひやりと触れる。おそらく室温設定は村越に合わせられていたのだろう。粟立つ肌を掌で擦り、吉田はひとまず室温を適正に戻すことにする。
空調を操作して、ついでに水を飲んで、癪に障るが今夜はこのままソファで寝ることにするか……。
三つ並べて拵えた巨大なベッドは、右側は村越の巨きな体に阻まれているが、左側は赤崎が足下で丸まっているために割合と開けていた。それでも、一度ここを抜け出してしまえば、再び男二人の眠るベッドに戻るのもなにやら間抜けな気がして。
「ボクをベッドから追い出した罪は重いよ」
いっそ蹴り落としてやろうか、それとも練習中、わざとボールをぶつけてやるか。
不穏な言葉でぼやきながら、肩からシーツを巻き付け、ベッドの上を四つ這いの仕草で左側へとそっと進む。けれど。
「ひっ! ……なんだい、もう」
進もうとした足首が、がしりと硬く暖かな掌に捕らわれる。手の主など、見ずともわかる。村越だ。
「コッシー、起きていたのかい?」
少しばかり落とした声音で問いかけて振り返れば、村越は変わらぬ苦悶の表情のまま、それでもしっかりと吉田の足首を掴んで眠っている。
「なんだ、眠ってるのか」
それでは、この手は無意識か。
呟いて、ふうん、と吉田は鼻を鳴らす。
「君が一番、猛犬じゃないか」
眠っている間も手にした獲物は放さないとは大した猟犬根性だ。呟いて、けれど吉田はすぐに口角を引き下げた。
「ということは、ボクが獲物、ってワケかい?」
おまけに、こんな風にベッドの上、村越を躾たのはおそらくどこかの女なわけで。なにやらますます面白くない気分で、吉田はくるりと体の向きを変えると、ベッドに腰を下ろし捕まれたままの足を宙で振った。
「コッシー、放してくれないか?」
だが、どれほど揺すろうとも、足と共に宙へと浮いた村越の腕はぷらぷらと揺れるばかりで一向に離れる気配はない。
「ああ、もう! 放してくれ!」
「……ん?」
潜めた声で小さく叫び、引き寄せた足で宙を蹴る。勢いよく振り上げた爪先に、村越のがっしりとした腕が肩口から跳ね上がり、足首の拘束が外れる。
「なん、だ?」
さすがの衝撃に男も目を覚ましたようだ。ぐっと寄せられていた眉がふと緩み、うっすらと目が開く。その眼差しが、正面に腰を下ろす吉田へと向けられた。
「ああ、ジーノか……」
「あ、ああ……コッシー、まだ夜中だよ、おやす……う、わあ!」
目が合うなり、村越がふわりと口の端を上げる。ここしばらく見ることのなかった、穏やかな笑み。それに気を取られている間に おやすみ、と口にするより先に村越の手がぐいと己を引き寄せる。予期せぬ力に吉田はころりと前のめりに転がった。ぎいぎいと音を立て、派手に揺れるベッドに足下から むう、と唸り声が上がる。
「ちょっと、コッシー! わっ、あっ!」
「スポーツ選手が、体を、冷やすな……」
寝ぼけているのだろうか。言葉と共に頭といわず体といわず、わしゃわしゃと乱暴にシーツが巻き付けられる。手荒い仕草にもみくちゃにされ悲鳴を上げているうちに、再び伸びてきた腕にまたもや絡め取られ、気づけば今度は正面から抱え込まれていた。
おまけにこちらがシーツの隙間からようよう顔を出した頃には、村越は早々とまた眠りに落ちているありさまで。逃げ出そうにも、がっしりと腰の後ろへと回された腕は、吉田が身じろぐ度にぐいと引き戻されてしまう。これはまた、男が本格的に寝入るまで当分放してはもらえなそうだ。
「……なんだい、このボクに好き勝手して」
一人文句を言いながら、それでも村越の腕から抜け出そうと、伸び上がった肩口へふわりと男の額が押し当てられる。
「もうっ!」
腹を立ててみても村越の少しばかり高い体温は、シーツ一枚の体には存外心地よくて、そんな感覚に吉田は思わず狼狽えてしまう。小さく唸り声を上げる。
「ほんとうに、ほんとうに……だれの躾なんだい? こんな迷惑な犬」
そうだ、この男は大きな犬だ。
考えて、吉田は大きく溜め息を漏らす。
芝の上では執拗なまでに執念深くボールを追いかける、獰猛でおまけに躾の行き届いていない迷惑な犬。
けれど、ちくちくと頬へと触れる髪も少しばかり高い体温も犬のものだと思えば、まあ我慢できなくもない。諦めに近い感情で体から力を抜けば、すかさず村越の腕が引き寄せて来た。やんわりと口の端を歪め、素直に身を任せる。
「まあ、いいさ。大型犬を抱き枕にして寝てると思えば……」
溜め息を漏らす吉田の吐息に乗って、村越の髪からシャンプーの匂いだろう、この男には不似合いな花の香りが漂ってきた。
作品名:合宿三日目、午前2時。 作家名:ネジ