二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

合宿三日目、午前4時半。

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
ぽかりと目が覚めた。
目を開けても視界は一面真っ暗闇で、ああまだ夜中か、ほっと安堵して赤崎はしゃりしゃりと糊の利いたシーツにそっと頬ずりをした。シーツからは手入れされたリネンの、どこかよそ行きの匂いがする。
ホテル……今は遠征先か。今日はどこと試合をするんだっけ。
とろとろと再び微睡みに引き戻されながら、散漫な思考を連ねてゆく。ついでに毛布の中、赤崎は両腕を交差させ静かに体中に力を込めて伸びをした。
猫の子のように丸まって眠るのは大の男として少しばかり情けのない癖だが、体中をふわふわとした暖かなもので包まれて怠惰に半覚醒のまま過ごすのは、普段体を酷使する仕事をしている自分にはなかなかに贅沢な時間である。
しょぼしょぼと瞬きを繰り返し横寝の姿で頬ずりの延長、軽く首を反らして細く息を吐く。次いで足先を引き寄せた。毛布の中に収まった足先は、触れた腿にひんやりとした感覚を伝える。冷やしてしまったようだ。
ああ、気持ちいいな。だけど、少しばかりこの部屋エアコン利きすぎじゃねえのか? 爪先が冷えてるぞ。起きたら湯船使って体温めるか……。それまで、もう一眠りしても平気だな。
つれづれとそんなことを考えているうちに再び瞼が閉じ掛かる。もう一度、眠ってしまおう。誘惑に負け目を閉じたところで、不意にどこか悩ましげな声が赤崎の耳へと届いた。
「……あっ、は、あ……」
細く高い声、続けて衣擦れの音。
「……んっ、ああ……んぅ」
なんだ、この声は。
甘く艶めいた声は鼓膜を通り越し、赤崎の背骨を直接震わせるような感覚を与える。
先ほどまでのとろとろとした微睡みの淵から急激に現へと呼び戻されて、赤崎は再び薄く瞼を開いた。
遠征先のホテルに女を呼び込む選手がいるという話は、噂では聞いたことがある。けれど、同室の者がいるというのに、堂々と常時に耽るというのは随分と肝の太い奴だ。
考えている間にも、背筋を震わすような甘い喘ぎ声が間断的に上がっている。そのうち、毛布がぽすりと揺れた。男か女かどちらかが、情事の最中、赤崎を包む快適毛布の外殻を蹴飛ばしでもしたのだろう。肝が太い上に不届きな奴だ。
腹立ちにむつりと眉を寄せて、けれど赤崎は慎重に毛布をそろりと引き上げた。誰だか知らないが、こんな不謹慎な男とその相手だ。顔をしっかりと拝んで脅すか誰かに告げるかしてやる。むかむかとした内心に荒れる呼吸を押し殺し、鼻先あたりの布を指先で押しやる。そこで、ふと我に帰る。
……てゆうか、相部屋、誰だったっけ?
「――コシさんと……王子?」
呟いた瞬間、すっきりと頭が覚醒する。途端、冷たい空気と共に、強烈な光が毛布の中へと押し寄せてきた。
「まぶ、し……」
毛布で隔絶されていたからすっかり夜中だと思いこんでいたが、どうやら気の早い夏の日は既に昇り始めていたようだ。横合いから差し込む朝日の、急激な明度差に眼底がきりりと痛む。ぎゅっと目を閉じそれをやり過ごし、用心しながらそろそろと薄目を開ければ、赤崎の視界に象牙色のつるりとしたものが映る。丸く、なめらかなその物体は底にうっすらと紅い果肉を潜ませて、ちょうど先日、昼食のデザートに振る舞われた桃に似ていた。なんだこりゃ、考えているうちにそれは動いて赤崎の毛布へぶつかり ぽすん、と気の抜けた音を立てた。
「う、ん……くるし、」
同時に、甘く高い呻きが上がる。
そのままそろりと引き戻された桃らしきものの先には、同じ色合いをした五本の指が生えている。指先はふらふらと彷徨い、宙を掻いた。丸いなにか、と思っていた物は踵であるとそこで気付く。
どうやら、誰か、寝相の悪い者が赤崎の毛布へと足をぶつけていたらしい。
「だれだ、寝相の悪い奴……」
とはいえ、相部屋ということは村越か吉田のどちらかで。おまけにこの踵まで寸分の手抜かりなく手入れされた脚の持ち主は、間違いなく吉田のものだろう。
すっかりと落ち着いた気分で、赤崎は今度は大胆に毛布を捲り上げた。女を連れ込んだ云々という疑惑は、同室が二人であると理解した瞬間消え去った。清廉潔白、生真面目すぎる村越は万が一にもそんなことをするような男ではないし、女関係もそれなりに派手そうな吉田だとて逆に言えば、こんなところにまで女を連れ込むほどがっついているはずがない。
ばさりと毛布のシェルターを脱ぎ捨て、赤崎はベッドの上に立ち上がった。薄いレースのカーテン一枚きりで外界と隔てられた部屋は、今は明け方の鮮やかな日の光に青と金色の二色に染められている。腕時計を確認すれば午前四時半。起床時間までまだたっぷりと猶予がある。
「目ェ覚めちまったし、風呂でも入るか……ふぁあ……あ?」
呟いてあくびを一つ。大きく伸びをしながら、ふと足下を見回して、目にした光景に赤崎は伸びの姿勢のまま固まった。
作品名:合宿三日目、午前4時半。 作家名:ネジ