メルヘンクエスト―2章
行き成り訳の分からない世界へ飛ばされ、ようやく旅の同行者?である羊の鳴き声にも慣れた頃……。
「なーなぁ、ずっと気になってたんだけどさぁ。…この格好って何なんだ?」
そう言ったギンタの格好は、普段のジャックのお下がり服では無い。
それは皆同じで、チャイナっぽい服からアラビアンな感じの物まで幅広い格好をしていて………コスプレ状態だ。
「そないな事言われてもなぁ…目ぇ覚めたらこんな格好やったワケやし。」
ぼやくナナシの格好はアラジンみたいな服装で、話題を切り出したギンタは肩当てやマントが付いている。
因みに、ドロシーはミニスカでニーハイのタンクトップ(手袋着用)で、スノウは白い長袖ワンピース(ピンクのフード付き)、アランは長袖のチャイナ服を腕捲りしていて、アルヴィスは何とも暑そうな詰襟長袖の重ね着(裾が長い)で、ジャックは半袖で………素朴な感じだ。
何とも季節感の統一が無い集団。
“本の外”でも同じ様なものだが、そこは棚に上げておく事にする。
この現状で、細かい事を気にしてなんかいられない。
「何だか雑技団みたいだよね。」
自分達の格好を指して、スノウはクスクス笑う。
「確かにそうだな。…この魔本を作ったヤツは相当ふざけたヤツみてぇだ。」
「こないな格好、メルヘヴンでしたくないなぁ。」
「マフラー取ったら肩剥き出しのアンタがそれを言うワケ?」
「確かに、ナナシは変なカッコだよな!」
「え、ちょぉ…ソレ酷ない?」
どう思う?とスノウに助け舟を求めたナナシ。
「ナナシさん……諦めて。」
助け舟は泥船だったらしい。
項垂れるナナシを置いて、ギンタは話を進める。
「何だかRPGみたいだな…。」
「ゲームは分かるけど…ろーる、ぷれいんぐって何?」
「どういう意味なの?ギンタン。」
「ん?ああ、俺の世界のゲームのジャンルでさ。プレイヤー…遊ぶ人が勇者になって、世界を平和にする為に旅をするって内容なんだ。」
オレ達の格好ってソレっぽいなって思ったんだよ。
「あとは武器があったら完璧何だけどなぁ。」
どうせならあれば良かったのに。
若干つまらなさそうに、ギンタは肩を落とした。
「ギンタ!あんまり物騒な事言わないでほしいッス!!」
「ご、ごめん。」
悲鳴に近いジャックの訴えに、ギンタは素直に謝った。
……状況を、説明しよう。
街道を行く7人。
ギンタが残念そうに呟いた直後、立ち直って空を見上げていたナナシが何かを視界に捉えた。
「なぁ、アレって何やと思う?」
ナナシの視線の先を辿ると、蒼い空に黒い点が複数。
「虫?」
「鳥じゃない?」
「ねえ…何だか、段々大きくなってない?」
「光ってるッスよ……。」
「…落ちて来てるな。」
1秒、2秒…。
「って、アレ剣やないか!!」
流石盗賊。
視力と動体視力の良さでいち早く空から降って来る物の正体に気付いた。
そうした間にも剣+αは速度を増して落下してくる訳で……。
「ギャーーーーーーー!!?」
ドスドスッ、カラン、ガチャン…ザクッ
空から降って来た物の正体は先が鋭く尖った剣や杖だった。
重力により凶悪な凶器になったそれらが7人の元へ降って来たのだ。
ウォーゲームを戦う戦士なだけあって直撃する事態は免れたが…羊の群れのせいでろくに身動きの出来なかったジャックの足元には、ひと振りの剣がシッカリと地面に突き刺さっている。
「っていうか、何だコレ!?危うく死ぬ所だったぞ(ジャックが)!」
まさか本に入って少しも経たない内にこんな驚異が訪れるとは思わなかった。
自分達よりも修羅場慣れしているアランですら額に汗が浮かんでいる。
「あ、危なかった…皆大丈夫、だよね?」
「…うん、皆無事だぞスノウ。」
「ホンマ、何やったんやろな。」
「魔本のトラップか何かだろ。」
「あ、危なかったッス…本気で、死ぬかと思ったッス……。」
「ちょっとサル…ブツブツ言ってないで先行くわよ。」
受け流すには強烈過ぎる出来事だったが、此方にはタイムリミットというものがある。
早くも命の危機を感じ、これから先どうなるのだろうという多大な不安を抱えながら、ギンタ達一行は街道を進む。
まだ引かない冷や汗を伴って。
「ナナシさん、痛くない?」
スノウがそう言って指差したのは、濃藍の後頭部。
「スノウちゃん、いくらアルちゃんの頭がトゲトゲしとるからって、別に凶器なワケやないで?」
2人の会話に他のメンバー(アラン含む)は肩を震わせている。
最初は米俵のようにアランに担がれていたアルヴィスだが、ドロシーの「アルヴィス顔真っ赤だけど…」という発言により、今はナナシに背負われている……長時間頭を下に向けていたら血も溜まるだろう。
「コイツのコレは癖なんだよ。」
笑いを抑えたアランの一言。
「あー確かに、風呂上がりはそんなに尖がってないわよね。」
「風呂直後はスノウみたいな感じだったッスよ。」
「そう言えば朝洗面所で頭から水被っとったなぁ…その後見たらこんな感じやったけど。」
「アルヴィス大変だなーそんな変な癖あると……。」
「オメェも人の事言えねぇんじゃねぇか?」
ギンタもアルヴィスに負けて劣らずの髪型…髪癖だ。
「お?……煙発見!」
アランの突っ込みを綺麗に無視したギンタが、大きな声と共に指差した。
「森火事ッスか…?」
「一応ここって本の中だし、細かな自然災害は無いんじゃないかしら。」
「じゃあ…本の中の住民かな?」
「よっし、そうと決まったら駆け足!皆行くぞー!」
ギンタは本の外でも中でも元気だ。
異世界の住人の体力に早々着いて行ける筈も無く、ギンタが煙の発生地点―森と森の間にひっそりと在る村―に着いた時、後ろには誰も居なかった。
「やべ、張り切り過ぎたか……?」
アルヴィスが起きてたら絶対小言言われてただろーな、寝てて良かった。
微妙に不謹慎な事を考えていると、背後から鋭い声が掛る。
『誰じゃ?!』
「うおぉう??!」
ビックリして変な声を出してしまったギンタが振り返ると、杖を突いた老婆が一人。
『なんじゃ、旅のお方か…。突然大声出してすまんかったのぉ。』
「へ、あ…良いって、別に気にす――」
『折角こんな辺鄙な村まで足を運んで貰った所申し訳無いが、この村は今お客人を招き入れる様な状況じゃ無いのじゃよ……。』
話を遮られた。
『お泊りさせる宿も無ければ、お出しする食べ物も無い。引き返して頂きたい。』
しかも老婆は自分の話をツラツラと続けている…ギンタが口を挟む隙も無い。
「えーと……?」
「あ!みんなー、ギンタ居たよ!」
助け舟!とばかりに、ギンタは追い着いて来た仲間を見た。
「良かった~助かったよ。何か変でさぁ…。」
「どないしてん?村やろココ。」
早ぉ話進めんと何時まで経っても帰れへんで、と呟くナナシの声を遮って、老婆がスノウの腕を掴んだ。
「きゃ!?え、何ですか…?」
『もしや………もしや貴方は白魔道士様では?!』
「シロマドウシ?この婆さん何言ってんの?」
作品名:メルヘンクエスト―2章 作家名:春雲こう