幼馴染パロ 短編集
プロローグ・君ばっかり、なんて馬鹿
ガシャーッンと派手な音を立てて、今日も来神学園の窓ガラスは砕け散る。
窓の下には人っ子一人いない。逃げ足は天下一品の生徒たちが在校するこの学校には、影で化け物と呼ばれる生徒が3人いる。
一人は、折原臨也。 人の心を操るのが大好き。人ラブ。愛してるわりには、ぼっち。Sに見せかけたドMかもしれない。
一人は、平和島静雄。平和が大好き。可愛いものと甘いものが趣味。池袋最強で天然。ノーマルに見せかけたドSかもしれない。
一人は、竜ヶ峰帝人。波乱が大好き。でも平和も大好き。必殺技はボールペン。秘技はうるうる涙目上目遣い。誰よりもドSだろう。
これはその3人が幼馴染という間柄なお話。
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<君ばっかり、なんて馬鹿>
「納得できない」
「どしたの臨也。そんな真面目な顔してると笑えてきちゃうよ?」
「それは俺の真顔が直視に堪えないものだって言ってる?なら逆に俺は泣くことになるけど」
「泣いたら僕じゃなくて静雄が笑うんじゃないかなぁ」
ほやほやと笑って軽く告げる少年は、机の上に次の授業の教科書を出している。
しかも真面目なことに、教科書を開いて進み具合の確認までやり始めた。
前の席の椅子に座って、体ごと後ろを向いている学ラン姿の少年は、真面目すぎるその態度に聞こえないように舌打ちをした。
「臨也、聞こえてる」
「帝人君が構ってくれないから悪いんでしょぉー。俺のこと見てよ、ずぅっと俺だけ見てて」
「それは僕の目が潰れちゃうなぁ」
「・・・ねぇ、やっぱり直視に堪えないって言ってる?言ってるよね、言ってるでしょ」
「あははは」
むぅっと臨也は口を尖らせるけれど、帝人に手出しをしようとは思わない。
生まれてからずっと、それこそ新生児室の隣のベッドのころから一緒にいるわけだけど、臨也が帝人をやり込めれたことは今まで一度もなかった。
口喧嘩でも腕力でも臨也は、帝人のそれより大分勝っているけれど、最後の最後で負けるのはいつだって臨也のほうだった。
(思い通りになる子は好きだよ。思い通りにならない子は愛しいよ。でもそれは、人間という種族の中の話)
人間をカテゴリ分けするとしたら、帝人・愛しい人間・大嫌いな人間の3つだとかつて臨也は語ったこともある。
そして「大嫌いな人間」と指差して言った男に、その差した指を折られたことだってある。
パキンと軽い音を立てて、向いてはいけない方向に曲がった指を見て茫然となったのは、もう遠い記憶だ。
(やっぱりシズちゃんは死ね)
帝人の後ろの席で爆睡している金髪のもう一人の幼馴染に、心の中でナイフを投げつける。
あくまで心の中で、だけだ。
寝てるやつをわざわざ起こして帝人との時間を奪われるなんてとんでもない。
英文をノートに写しながら、訳を考えている帝人のシャーペンを奪い取る。
反対側からすらすらと日本文に訳して書いてやると、帝人は呆れた、と呟いた。
「臨也ってどうしてこう無駄に器用なのかな。無駄に」
「2回言わなくていいよ。っていうか訳してあげたんだからお礼言いなよ。あ、態度で示してくれてもいいんだけど」
「頼んでないから言いませんー。自分で考えなきゃ力にならないじゃん、馬鹿臨也」
「英語が必要な場所に行くなら俺も一緒に行けば問題ないでしょ。帝人君が英語力なんてつけなくていいの」
ぶーぶー文句を言いながら、机の上で組んだ腕に顔を乗せる。
帝人はシャーペンを奪い返すと持ち手のほうで、今はふくれっ面になっている白皙の頬をつつくと、構ってもらえて嬉しいのか臨也は満足げに笑った。
単純なことで、と内心で帝人も笑う。
「受験に必要なの」
「じゅけん~?俺らまだ2年だよ、いいよそんなの。それに帝人君は俺と一緒に情報屋やるから、受験なんてないよ。ないない」
「んー、じゃあ臨也が情報屋になって、それが軌道に乗って、危なくないならバイトだけはしてあげる」
「永久就職でもいいんだよ?遠慮しないでさ」
シャーペンを置いて、むにむにと指で頬を突き始めた帝人の指先を、ぱくりと据えてやる。
唇で甘噛みすると「えいっ」なんて可愛い掛け声とともに、一気に喉の奥まで突っ込まれた。
「ぐほ・・・っ」
「ちょーしに乗るからだよ。馬鹿いざやー」
ゲホゲホと咳き込む臨也を見て楽しそうに笑っていた帝人は、唾液に濡れた指をためらいなく自分の口に持っていく。
そのままちゅっと音を立てて指を吸って、やはり何事もなかったかのようにハンカチでふき取る。
全く顔色一つ変えずに行われた動作に「納得できない」と再度臨也は呟いた。
はてなマークを浮かべる帝人の額に伸び上がってキスをしたら、笑顔のまま机の上にあった英語の教科書で平手打ちの要領でパーンッと景気よく殴られた。
(俺ばっかり君を好きなんて、やっぱり納得できない!)