幼馴染パロ 短編集
呪いをかけよう、さぁかけよう
<呪いをかけよう、さぁかけよう>
「あれだね、臨也も馬鹿臨也だけど、静雄も馬鹿静雄なのかな。僕の幼馴染は馬鹿ばっかりなのかな」
「・・・・わるい」
「謝ればいいってものじゃないよね。あと別に僕に謝る必要もないよね。怪我したのは静雄の自業自得で、怪我させちゃったのも静雄だしね」
「・・・・ごめんなさい」
「言い方変えても駄目」
しゅん・・と大型犬がうなだれるように体を縮めさせる金髪の少年に、手際よく包帯を巻いてやりながら特大のため息をついた。
そのため息に、縮めた体をさらに震わせる。
今日も今日とて奇襲のつもりか真昼間から、臨也の仕業かただの不良の遠征かお礼参りか、襲いかかってきた他校の生徒をちぎっては投げちぎっては投げと繰り返した静雄は目の前の少年に頭が上がらない。
幼いころから化け物と言われ、遠巻きにされてきた。
そんな自分の傍に当たり前のようにいてくれる帝人・・・と、いたくないけどいなきゃ仕方ないという立場の臨也。
臨也はともかく、帝人の存在には心から感謝している。
怖がりもせず、むしろ目を輝かせて自分の尋常ではない怪力を受け入れてくれる、しかも小さくて可愛らしい幼馴染。
(女だったら結婚できたのに・・・まぁ男でも籍入れれない程度か・・・じゃあいいか)
なんてボンヤリ考えながら、手に包帯を巻いてくれている小さな黒い頭を見下ろす。
自由になるもう片方の手で、そっとその頭を撫でると痛みってなに?と言わんばかりの艶やかな黒髪が手に吸い付くようだった。
さらさらとした感触を楽しんでいると、包帯を巻き終えた帝人が立ち上がる。
遠くなってしまった頭を残念そうに眺めて、きっちりと丁寧にまかれた包帯を見やる。
「・・・ありがと、な」
「どういたしまして。でもあんまり暴れちゃダメだよ?静雄が怪我したら僕泣くからね」
「泣いたのか?」
琥珀色の目を心配そうに歪ませる。
そんな静雄のほうが泣きそうだなぁ、なんて呑気に思って帝人は笑った。
静雄はいつだって帝人に対して臆病だ。
泣かれることにも、怒られることにも、自分が悪くなくても自分のせいなのかと落ち込んだりする。
臨也とは全く正反対の考え方だ。
(同じ幼馴染でも、こうまで違う成長の仕方するんだなぁ・・・)
と自分を棚に上げて思う。
基本的に静雄は自虐的であるが、臨也は自分の罪も相手のせいにするタイプだ。
ちなみに帝人は自分の責任は自分で負うのが当たり前だけど、他人の責任を負ってやるつもりはないと思っている。
「これ以上酷い怪我したら、泣いちゃうね。泣いて泣いて目が溶けちゃうかも」
「それは困るな・・・俺は帝人の目、好きだ」
「・・・うん、じゃあ怪我しないように」
おまじない、と言って包帯の上からそっと唇を押し付ける。
伏せたまつ毛の一本一本が見える距離で、静雄は目を見開いた。
「ん。これで今日一日、僕と静雄は手を繋いだままでいなくちゃいけません」
「なんでだ?」
「そういうおまじないだから。今日一日離れられない呪いを掛けちゃいましたー・・・信じる?」
「信じる」
こっくりと頷いて、絶対に離れないように指を絡める。
喧嘩をしないように帝人が重しになってくれるなら、申し訳ないけど嬉しい。
ただ包帯に邪魔されて帝人の手の熱を感じられないのが残念だった。
「これで5限目の体育、マラソンだからね。静雄は僕を抱えて走ってね」
「任せろ」
いまいち騙されたような気がしなくもないが、考えるのが苦手で嫌いな静雄は素直に頷いた。
きっとマラソン中、背後からナイフが飛んでくるだろうけど。
(帝人を抱っこして走る・・・あれか、逃避行ってやつか)