幼馴染パロ 短編集
たまにはね、デレもする
＜たまにはね、デレもする＞
「どっちもでいいんだけどね僕は。どっちでもいいんだけどさ、ほら、材料がもったいないっていうか。でも別に食べなくてもいいし、っていうか食べると危険かもだし、だからどっちかというと食べない方がいいんだけど」
とつらつら喋りながら机の上を見つめる帝人の目は、だんだん親の仇を見るようなキツイ眼差しへと変わっていく。
場所は竜ヶ峰邸のダイニングだった。
普通の一軒家だが、現在ここに住んでいるのは帝人だけだ。
父も母も健在だけれど、父親の単身赴任に母親が付いて行ってしまった。
裏では臨也が噛んでいる・・・が、それは帝人も別段気にはしていなかった。噛んでることには気づいていたけれど。
男子高校生らしくなく、帝人は身の回りのことは一通りできる。
というか臨也と静雄の面倒を見ていたら、いつの間にかできるようになっていた。特に掃除。
が、人間なので得手不得手が存在する。
その不得手な部分を凝縮したものが、現在机の上に鎮座していた。
「・・・黒いね」
「・・・黒いな」
ぽそりと2人が呟く。
平日だろうが休日だろうが気付いたら竜ヶ峰邸にいる臨也と静雄に対して、帝人はもう意識しないことにしている。
両親が赴任先に旅立ったその日から2人はいた。
臨也はいたいからいるのだろうし、静雄は臨也と自分を2人きりにしないためにいてくれているのだろう・・と帝人は思っている。
ちなみに正解だ。
が、大正解の花丸をつけるには、静雄も帝人といたいからいる、という一文も付け足す必要がある。
「黒いのは知ってるよ。見たらわかるよ、知ってるんだよ。オーブン開けたその時から黒かったって知ってるよ」
「ちょ、帝人君、いくら失敗して悲しいからって泣かないでよ」
「泣いてない！あと悲しいんじゃなくて悔しいの！」
ギッと臨也をにらみつける帝人の双眸は、確かに涙目になっている。
テーブルの皿の上にどっさりと積まれたそれは、本来ならばこんがりきつね色のクッキーのはずだった。
「すまねぇ帝人・・・俺がクッキー食いたいなんて言わなけりゃこんなことには・・・・」
「・・・っ！」
「シズちゃん・・・その言い方のほうが傷つくよ。確実にずたぼろだよ！」
「えっ、マジか・・・・・悪い、帝人・・・」
「いっ、いいよもう！失敗した僕が悪いんだよ・・・サルでも作れるクッキーレシピってネットから拾ってきたのにこのザマで・・・っ！」
「なにそのレシピタイトル！？」
不甲斐なさにとうとう両手で顔を覆ってしまった帝人の頭の上で、静雄と臨也のアイコンタクトが行われる。
非常にレアな姿だが、それを見る者はいない。
ぐっと一度固く目を瞑り、聞こえないようにそっと深呼吸をした臨也が、恐る恐る黒い塊の一つに手を伸ばす。
指先で触れるとボロボロと崩れていくクッキー（仮）
どう控えめに見ても煤にしか見えないそれを、口に含んだ。
「・・・どうだ？」
「・・・・」
小声で尋ねる静雄に、沈痛な面持ちで臨也は首を横に振った。
食べられません――ってシリカゲルの袋に書いてあるよ、なんて意識逃避しながらも何とか飲み込む。
にこ、とブッダがジェットコースターでサムズアップするが如く遠い目をして、ほんの少し口の端を上げた。
笑みというより引きつっただけかもしれない。
ごくりと生唾を飲み込んで、静雄も黒い塊を指先でつまんだ。
真っ黒なのになぜかハートの形を保っているそれを、口の中に押し込める。
とたん広がる苦い味・・・香ばしいを通り越して完全に焦げて食べ物ではなくなった匂いが口の中に充満する。
根性で飲み込みながら臨也のほうを見てみれば、やけに静かな視線と目があった。
「・・・うん」
「・・・あぁ」
（（むりだーー・・・））
心の声が重なり合う。
案外グルメの臨也はこの味に耐えられなかったし、野生の勘を持つ静雄はこれは食べ物ではない、と体が訴えていた。
ちらりと視線を帝人に移せば、ばっちりと目が合う。
そして悲しそうな顔で
「ごめんね2人とも・・・美味しいクッキー食べさせてあげれなくて・・・」
と涙目の帝人が呟いた瞬間、2人は鏡に映したように同じタイミングで1つ頷いて
「「大丈夫、美味しいよ（ぜ）」」
グッと親指を立てると、きっちりクッキー（仮）を二等分して食べきった。
最後には2人とも咳き込んでいた。
綺麗に何もなくなった皿を見て、帝人が申し訳なさと嬉しさで複雑な表情を浮かべる。
その帝人の頭に手を置いて静雄が「次はお前の作ったプリンが食べたい」と言えば、反対側から臨也が肩に腕を回して「俺はケーキ食べたいなぁ」と囁く。
帝人がそれに言葉を返す前に、臨也がもう一度口を開いた。
「ま、帝人君が作ったやつならなんでもいいけどね」
「同感だな」
うんうんと頷きあう幼馴染2人に、
「・・・ありがと、だいすき」
と聞こえないぐらいの小さな声で呟いて、「僕飲み物淹れてくる！」と慌てて立ち上がって走り去った。
慌てて足をぶつけたんだろう、「いたっ」という声とガタガタと音が響きわたっている。
逆に静けさに包まれたダイニングで残された2人組は。
（（は・・・反則だろぉ～～っ！！かっ、可愛すぎる！！））