幼馴染パロ 短編集
それでもきっと、あなたにはたからない
<それでもきっと、あなたにはたからない>
「大変だよ臨也・・・僕所持金があと163円しかない。お昼ごはんがイチゴオレオンリーになっちゃう」
「任せて帝人君!手を繋ぐ、で1000円。腕を組む、で5000円。ハグで10000円でちゅーで50000円だよ!」
「お手」
「はい!」
条件反射のように差出した臨也の手の上に、帝人がぽんっと手を置いた。
そのまま握手をしてぶんぶんと手を振ってから離す。
「1000円」
「高い!今のでそれは高いよ帝人君!」
「仕方ないなぁ・・・」
絶対に仕方なくないことを言いながら、帝人は首を捻った。
そんなに俺と手を繋ぎたくないの・・・と地味に落ち込んでいる臨也に、ばんざーいと告げる。
きょとんとしながらも、臨也はおとなしく両手を上げた。
ら、がばりと音がする勢いで帝人が臨也の体に腕を回して、ぎゅーっと抱きしめる。
しかも胸元にほっぺたをすりすりされて、「うお゛ぉぉぉっ!」と聞いたこともない叫び声が臨也の口から上がる。
「どっ、どどどどどしたの帝人君!ちょ、デレ!?15年間一緒にいてようやく訪れた雪解けの春がごときデレが今俺の目の前に舞い降りた天使が帝人君だったってこと!?確かに!君は天使だ!!」
「え、意味わかんない。日本語喋ってくれる?」
「ずっと日本語しか言ってない!ツンに戻るの速すぎじゃない!?っていうかまだハグしてくれてるしこれはまさにツンデレの境地!?」
「臨也が手、繋いだのに文句言うから。これで1000円だからね、あ、ちゃんと後で返すから安心してね」
「いいいいいよ!もちろん払うとも!あとお金で返されるよりはちゅーとか体で払ってくれ――」
「しねぇぇぇぇぇっ!!!!」
廊下の端から端まで爆走してきた静雄が、廊下の途中で掃除用具入れからモップを取り出して槍投げのように投げつける。
背後の気配に完全に油断していた臨也の頭に、ズガンッといい音を立ててぶち当たった。
勢いに逆らわないまま、前のめりにワックスのきいた床へと崩れ落ちる。
床と臨也の体の間からえっちらおっちらと抜け出してきた帝人の体を、ひょいと子供を抱き上げるように静雄の腕が掬い上げた。
そのまま横抱きにすると、帝人も静雄の首に両腕をかける。
熱しやすく冷めやすい静雄が、憑き物が落ちたかのような茫洋とした表情で帝人の顔を覗き込む。
「・・・・で、何があった」
「実は163円しか残金がなくて」
「・・・昼飯はおごってやるから。エンコーみたいな真似はやめとけ・・・。あと臨也は殺す殺す殺す」
会話の途中で変態の手から娘を助け出した親のような形相に変わった。
泣きそうになりながら怒る静雄の金糸に顔を埋めて、帝人は「でも」と呟いた。
「持ってるところからふんだくる、っていうのが僕のモットーなんだよね」
「・・・俺、頑張って高給取りになるからな」
「?うん、静雄だったらなれるよ・・・・裏社会かもしれないけど」
最後は小声で付け足して、帝人は普段よりずっと高い位置からぴくりとも動かない臨也を見下ろす。
あ、この視界って結構非日常!なんて友達甲斐のないことを思いながら手でメガホンを作って
「いざやー。ご飯食べにいくよー」
「・・・っはぁっ!!俺!復活!死ぬ気になればなんでもできる・・!帝人君の為なら生き返ることだってでき――」
「お腹すいたね。静雄は何食べる?購買と食堂どっちにしようか」
「お前と一緒なら何でもいい」
「――っておぉぉぉい!!!何置いてってくれちゃってんの!?ちょっ、シズちゃん走らないでよっ、みか、帝人君おいてけーー!っていうか置いて行かないでーーっ!」
バタバタと走り去った2人プラス1人を見て、廊下の壁に張り付いて、もしくは教室の中から伺っていた生徒たちが一斉にため息をついた。
(どっちと付き合っても・・・3人でも・・・・どっちにしても・・っ!)