砂城 <前篇>
「戦争はたくさんの人が死ぬ。兵士だけじゃない。何の関係もない民でさえも、そして私だってどうなるかわからない」
父だったら、この言葉を聞いて何と言うだろう。
この男の言葉を否定しただろうか。それとも、正論だとわかりながらも沈黙を貫いただろうか。仮に上手いこと反応を返せているのは確かだろう。だが、子供の晋助にはそれができない。術を知らない。
「晋助、君はお父上を継ぐんだってな」
言われて、晋助はこくり、と大きく頷く。そんな晋助に男は、頼もしい限りだ、と笑顔を向けた。そして、晋助の視線の高さに合わせるように屈み込んで言葉を続ける。
「そんな未来の総督殿に王として一つ約束して欲しい」
「やく、束……?」
「早かれ遅かれ、将来、この子は私の後を継ぐことになるだろう。もしそうなった時、晋助、君はこの子の友として傍にいて欲しい」
友。
この言葉に如何程の想いが込められているのだろう。
晋助は思わず男と、そして少年を交互に見つめる。
真摯に真っ直ぐ晋助を見つめる男。
そんな父親を不思議に思ってか、きょとんとしながらも父親の腕にすがり付いて離れようとしない少年。
そして、ひとつの約束を取り交わそうとしている、自分。
端から見たら、とても不思議な光景に違いない。だが、ここにある想いは紛れもなく、本物だ。
今の――子供の自分にできることは少ない。けれど、出来ることからしなくてはいけないのは晋助自身が一番良く知っていた。
晋助は意を決して、男の足元に跪く。
そして――――。
「未来の総督・高杉晋助、確かに拝命致しました」