相反する存在
「本当にむかつくっ」
たっと臨也は地面を蹴り上げ、一気に間合いを詰める。あの喧嘩人形と殺り合っている臨也だ。戦闘はお手の物。
ナイフをそのまま杏里の首元へと斬りつけようとする。別にここで臨也が人を1人殺したとしても、臨也の情報網を駆使すれば、
人1人の生きて来た情報など簡単に抹消できる。
だから、臨也はここで杏里を殺そうとした。
この化け物の所為で帝人は臨也の前から姿を消したのだ。これ以上の理由など無いだろうと臨也は思う。
(帝人君が俺から逃げてる!あんなに優しく甘くしてあげたのに!全部全部台無しだっ!この女の、化け物の所為でっ)
初めてだった。人の枠を越えて竜ヶ峰帝人という個人を愛した。それは臨也にとっては天変地異が起きてもおかしくないほどの衝撃で。
同時にとても浮き足立つ思いだった。だから優しくした甘くした大切にした。誰よりも何よりも帝人を優先してきた。
それなのに、杏里が全てをぶちこわした。
今まで臨也が行ってきたこと、人を売買することに手を貸し、誰かを貶めて歪んだ人間観察をしていることを話して聞かせた。
最大のことが帝人の親友である正臣の疾走の原因を作ったのが臨也だと、帝人に告げたのだ。
どうして帝人が臨也に会いに来ないのか、連絡を一方的に切ったのかはすぐに解った。その時初めて誰かに対し殺意を抱いた。
あの静雄にさえここまでの怒りと殺意を感じたことはないだろう。
化け物に大好きな人間の愛を語られることだけでも苦痛だったのに、事もあろうに臨也が初めて大切にしたいと望んだ帝人を奪ったのだ。
帝人を取られた、という事柄が臨也の頭を埋め尽くしていた。
キン!と言う金属特有のこすれた音が響く。杏里の首元に臨也のナイフが届く前に罪歌に止められた。
競り合いの場面なら腕力は男である臨也の方が優位。だが、経験で言ったら長く存在している罪歌に分があった。
競り合いから刀の技巧の賜物だろう、まるで柳のようなしなやかさで刀を滑らせ臨也のナイフを反らし、足を踏み出して一気に詰め寄る。
「っ」
またカキンという金属同士が響き合う音が響いた。けれどすぐに臨也は間合いを開けるために高く跳躍し、杏里の間合いから身体を遠ざける。
杏里は罪歌を構え直し、臨也を見据えた。臨也もナイフを杏里に向け、彼女を見下す。
「ここで死ねよ。化け物。俺と帝人君のためにさ!」
「それは私の台詞です。竜ヶ峰君の為に、どうか罪歌に切られてください」
臨也は笑みを歪ませ舌打ちをする。杏里は背を低くし、臨也の懐に飛び込む準備をした。
「死ね」
「切られてください」
そして二人同時に、足を踏み入れた。
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帝人君を奪った君を絶対に許さない。
二度と竜ヶ峰君には近づけさせない。