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立石良則という男

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千代さんと一緒になってお酒やお料理の用意をし、お酒を客間へと運んでいけば良則さんがわたしを隣に座らせた。わたしは何か、良則さんと一緒にいるところを他の誰かに見られることに罪悪のようなものを覚えて、俯き加減に二人にお酌をして、上の空で話を聞いていた。けれども名前のひとつも名乗らずにいることに居心地の悪さを覚えて、紹介してくれるように良則さんに目をやれば、その目がいつもとは違う具合に歪んで細められる。



―――――――――あ、わたしは、この人を愛しているんだ。



その歪んだ、屈折した光の瞳を見た途端にするりと降りてきた言葉に感電するように痺れ、涙ぐんでしまいたいような気持ちに戦慄いたわたしの肩を抱いて、良則さんはそのお客にわたしを見せた。




「ふみ、お前の夫になる男だ」















断ることなどできるはずもなかった。

最後の最後で、良則さんは「養父」へと戻っていた。
わたしは失望とも言いきれぬような気持ちの中で、不思議と涙も溢れることはなく、白無垢を着せられていった。しかし白無垢を着てしまえば、ああ、これでようやく全てが終わる、と犯罪の時効を迎える犯罪者のような気持ちにもなっていく。―――これで、畜生ではなくなるのだろうか。


今更人間の女のような顔をして、白無垢を着てしまう。
今更人間の女のような顔をして、よくは知らない人の腕へと入っていく。


良則さんが積極的に場を設けてわたしをその米田さんへと引き合わせていった、良則さん。米田さんはまだ若く、好感を抱ける人で、きっと彼が年相応になればそれは子供思いの父親らしい男になる人だろうと思った。そういう平凡な愛情とやさしさの中の人だというのはよく分かった。ああ、これでようやくわたしはまた平凡な娘になれるのかもしれない。



やがて白無垢を着てぼんやりと姿見の前に座り込んだわたしの前に良則さんが現れた。
わたしは普通の娘がするように育ての恩を感謝するべきなのだろうか、とぼんやりと考えたけれど、良則さんはそんな事はまるで望んでいないような気がした。

ただ微笑もうとした輪郭が歪に宙に浮かんだわたしを無表情に見下ろして、いつかそうしたように顎を持ち上げ、片手で器用に紅の蓋を開けてその薬指に真っ赤な紅をつけ、わたしの唇に紅を走らせ、瞳も閉じずにその顔を焼き付けるように切実な思いで見上げるわたしの顎から手を離した。







そして、良則さんはにやりと片頬だけを持ち上げ、父親でも男でもない顔で、笑った。
作品名:立石良則という男 作家名:山田