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ブギーマンはうたえない〈4〉

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街の東外れにある塔。そこから発せられていた不可視の電波をなんとかするために新羅が日夜奮闘してくれている。
本当はその日のうちに出来るかもしれないとのことだったのだが、いかんせん元いた研究室程設備がなかったのと、思ったよりその電波の波長が特殊であったため手を焼いているようだった。
その間、津軽は公演のためのリハに劇場に足を運ぶ毎日が続いていた。静雄の記憶にあった幽の演技を参考にしてはみるものの、真似るだけと本当に自分で演技するのでは段違いだった。それでも同じく公演の出演者である正臣や杏里、また監督である帝人に助けられ、元は飲み込みが良かったのか段々とブギーマンという怪物を演じることが出来てきているようで。
その日常は津軽には初めてのものばかりで、全てが大変であり、だがどこか充ちた不思議な感覚も持ち合わせていた。それはよく分からないものだったが、別に悪い気はしなかった。
そしてそれを新羅に話してみたら、新羅は少しだけ苦笑して、でも怒ることはなかった。


「じゃあ、今日はここまで! 明日は68ページの街のシーンからやりますんで、しっかり自分で掴んでくるように」
「チッチッチッ、帝人、いつも言ってるようにこの俺がおまえの言う役どころを掴んでいないとでも?」
「あ、明日正臣の出てくるところじゃないから」
「えっなにそれ俺いらない子!?」


本日のリハも終了し、それぞれが思い思いにお疲れ様と声をかけあって帰り仕度を始める。津軽はこれといって荷物もないので、外で一服してから新羅のところへ帰ろうかと煙管を取り出し出口へと足を向けた。


「あーッ、津軽くん! 待って待って!」
「?」


と、思ったら、後ろから甲高い声に呼び止められて津軽は足を止めて振り向く。向いた先、そこにはニコニコと満面の笑みで走り寄って来る小道具及び衣装担当である狩沢の姿があった。
どうしたんだろう、何か忘れ物かと津軽は首を傾げるが、忘れるも何も自分は何も持っていない。ではなんだろうと津軽は黙って狩沢をじっと見ていると、狩沢は「へっへ~」となにやら楽しそうにしながら津軽の着物の袖をちょいちょいと引っ張った。


「今日みんなでご飯食べに行こうよ!」
「え…?」
「いっつも津軽君先に帰っちゃうから、今日は食べよ! それに私津軽君に渡したいものがあるんだよねー」
「あ、…でも、新羅に…」
「あ、マネージャーさん? そういや今日も来てないねー。じゃそしたらさ! マネージャーさんも連れてきたらいいよ! どこにいるか知らないけど!」
「え、あ、でも」
「私達まだちょっと片付けあるからさー、先にここに行ってて! ちゃんと来てね津軽君!」
「あ…、」


ここ、と行って津軽に場所を書いたメモを握らせ、狩沢は人の話には聞く耳持たずで道具の片付けにまた舞台袖の方へ戻っていった。
津軽はその握らされたメモをぴらと顔の前まで上げながらどうしようと眉を寄せてメモと睨めっこしてしまう。
新羅はまだホテルでサーチアイの改良に勤しんでいるだろうが、はたしてそこへご飯を食べに行こうと言って怒られはしないだろうか。でも今更行けないと狩沢に言うのもなんだか怖い。
どうせ怒られるなら身近な人間の方がいいだろうということで、とりあえず津軽はそのメモを袖口にしまい劇場を後にした。














帰って新羅にご飯に誘われたことを報告したら、思いのほか新羅は乗り気でその誘いに乗ってくれた。
聞けば手こずっていたサーチの問題も解決したとのことで、だからその祝いに皆でご飯なんて嬉しいじゃないか! と笑顔で承諾してくれた。別にその祝いでご飯を食べるわけではないのだが。
なので狩沢の指定された場所に津軽と新羅はいそいそと繰り出した。新羅はいつもの白衣姿、津軽は真っ黒な着流しの姿でその場所へ立つ。そしてしばらくすると遠くから狩沢と遊馬崎と門田がけっこう人通りがあるというのにすぐに新羅と津軽を見つけて駆け寄ってきた。「あははー!」と狩沢と遊馬先は楽しそうに笑いながら、門田は苦笑しながら二人の前に立つ。


「黒と白だからすぐ分かったよ! いろんな意味で目立つよねー」
「そうやって相反する組み合わせで二面性を表し、また真逆にかけ離れているようで実際は背中合わせのように持ちつ持たれつ…」
「おら、グダグダ言ってねぇで行くぞ」
「あっ、ヒドいっスよ門田さーん! オタクの口上は最後まで言わせてなんぼであってですねー」
「こんな通りの真ん中で人の迷惑になるだろ」


相変わらずの騒がしい一行に久しぶりに会った新羅も「変わらず楽しい人達だねー」と楽しそうだ。津軽もたまに何を言っているのかは分からないがこの人物達は嫌いではなかった。
門田達に連れられ、向かった先はある通りの角にあった寿司屋だった。露西亜寿司とかかれた暖簾をくぐり、中に入ると真っ黒な黒人の大男が「イラッシャーイ」と出迎える。


「あ、」
「オ? マタ会ッタネ、金髪のサムラーイサーン」
「どうして…ここに?」
「オー、ワタシイロンナところイルネー」
「何? 知り合い?」
「え? あ、いや…」
「カッドタシャチョー、今日ハ特上イットクカー??」
「いや、並でいい。あと奥の座敷使うぞ」
「ハイヨー、特上5人前ー」
「……別に出してくれてもいいが、払わないからな?」


「ハハハ、冗談ネー」と黒人の大男は門田の背中をバンバン叩く。叩かれた門田は「ぅぐっ」と前につんのめりながらその大男にじとりと視線をくべて「…んな八つ当たりすんなよ……」と冗談か本当か分からない呟きを吐くとそのまま奥の座敷へと足を向けた。
門田に続きぞろぞろと座敷へ入り、皆思い思いの席へとつく。津軽は狩沢の希望で狩沢の隣になった。


「あははありがとー。私津軽君に確かめたいことがあってね…」
「え?」
「ちょっちしっつれーい」
「っ!?」


隣に来た津軽を狩沢は軽い断りを入れてからぐっと津軽の顔をその両手で挟んで自分の顔に近づけた。その表情はこれ以上なくニコニコしている。
ギョッとしたのは周りにいた門田と新羅だった。遊馬崎もニコニコといつもと変わらない。そして一番驚いていたのは津軽だ。かけていたサングラスがずれ落ちそうな程に顔面全体でひくひくと恐怖に表情筋を引き攣らせている。


「ちょちょ、狩沢…ッ、おまこんなとこで何を…!」
「しっ、ちょっと黙っててドタチン!」
「いやムリってもんだろ…っ」


門田に一言投げて制しただけで、狩沢は津軽の顔を離さない。離すどころか段々近づいてくる狩沢の顔に、津軽は真っ赤になってギュッと目を瞑ってしまった。


「……あ、やっぱりだ」
「え?」


だが別にくっつくまで行かず、寸でのところで狩沢の顔は止まって。そしてすぐに離れていく。


「前から思ってたんだけど津軽君て、なんでか口からミントの香りがするの!」
「…………は?」
「そうそう、俺も前からそれ思ってて狩沢さんとこの前話してたんスよー。でも確かめるにしても男の俺がしたらなんか変でしょ?」
「………お・ま・え・ら・な…っ、そういうのはちゃんと前もって言ってから行動を起こせ!」
「あははははなるほど、そういうことか!」