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ブギーマンはうたえない〈4〉

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「……、え? どういう、ことだ…?」


狩沢の腕が離れてやっとで解放された津軽は、何故か胸の動悸がしているようで。その部分をおさえながら複雑な表情をしている門田と、ははははとまだ笑ってる新羅に顔を向けた。


「それは僕から説明するよ狩沢さん」
「え! 津軽君のミントの吐息の秘密はマネージャーさんが握ってたの!?」
「だって僕が調合しているからね」
「ちょうごう???」
「津軽がいつも吸ってる煙管さ。あれに詰める刻み煙草の中に、鎮静作用のあるミントの葉っぱも少し混ぜているんだ。だからミントの香りが仄かにしても納得の出来る事実だろう?」
「沈静作用って…、何か持病でも抱えてんのか」
「…いや、そんなたいしたことじゃ…ない…」
「うん、彼はちょっと偏頭痛持ちでね。だからその痛み止めみたいなもんかな…?」
「へ~そうなんスね~」


ふんふんと素直に関心を示す遊馬崎と狩沢に「え、もしかしてその謎解きのためだけに今日はご飯に誘われたのかな?」と新羅がひょんと幾分返答に困りそうな質問を投げかけるが、そこはどうともしないのか狩沢が「ううん、もいっこあるよー」となにやら自分の鞄の中をごそごそし始める。


「ほんとはこっちが本命っていうか…」
「まぁあんたらともゆっくり話してみたかったっつーのもあるさ」
「ああそれなら、僕も君らにちょっと聞きたかったことがある…」
「じゃじゃーん!」
「か…も…?」


門田に向いていたはずの新羅の視線が、狩沢の「じゃじゃーん!」と一緒にその鞄から出てきた中身のものに目がいってしまい言葉が途中で抜けていく。
薄く青をのばしたまるで朝焼けの白い空のような布地の着物。それとその白をだんだんと覆う濃い青空の中波の飛沫が散られたかのような目の覚める羽織。
隣にいた津軽もその出てきたものの色鮮やかさにぱちくりとその双眸を見開いていた。


「…き…もの…?」
「そう、津軽君に!」
「おれ?」
「うん。前々から津軽君に作ろう作ろうって思ってたんだけど、…ほら、ここ!」
「…?」


着物を一旦自分の膝に置いて、隣の津軽の着ている着物の裾を引っ張り持ち上げる狩沢。よくと見ればそこはビリビリになって破れている。


「あ、」


そこはこの前高台の塔を調査したとき、逃げる際に有刺鉄線に引っ掛けて破れた箇所だった。着る物に頓着しない津軽であったし、新羅もここのところサーチ改良に忙しかったためそのまま同じ着物を着ていたことに今気づいた二人である。


「もしかして津軽君なりのファッションかな? っても思ったんだけど、ちょっと私の仕立魂が許さなかったというかなんていうか…」
「本当はその羽織の裏に美少女を描こうかと思ったんスけど狩沢さんが断固として許可してくれなくてですねー…」
「あったり前じゃーん! 津軽君ていうクールそうに見えてちょっと天然? な母性心をくすぐるキャラが崩れちゃう!!!」
「結局キャラ扱いかよ…」


「でもそういう天然っぽいのが隠れオタクってのも最近のトレンドでは…」や、「いやっ、津軽君が美少女にはあはあしてたらただのコスプレ好きのアニオタじゃん!」などと狩沢と遊馬崎の二次元トークが飛び交う中、津軽はその青い羽織をそろりと広げてその色を食い入るように見つめた。
海。空。どちらともいえないような。深いようで遥か遠いようで。まるで吸い込まれるような、色。


「…それね、津軽君の瞳の色をイメージして染めたんだよ」
「え…?」


いつの間に遊馬崎との会話が途切れたのか横から狩沢がその羽織を指して教えてくれる。
瞳の色、と言われて自分の瞳はそんな色だったか? と不思議そうに新羅を見ると、新羅はにこりと微笑んで「そうだね」と頷いた。


「津軽の瞳は時によって変わるような、そんな不思議な青色な気がするよ」
「あお…」
「あ、そうだ。津軽、今来てる着物も破れちゃってるし、着てみたら?」
「え?」


新羅の一言に、津軽はきょとんとするが「いいねーそれ!」と乗りに乗ったのは作ってきてくれた狩沢だった。


「うん、折角だから着てみてくれる? 採寸合ってるかもみたいし…」
「おいおい…、この狭い座敷のどこで着替えるんだよ」
「隣空いてるんじゃないスかー? てか別に男ばっかだしここでもいいと思いますけど」
「うん! 別に私気にしないよー!」
「そこは気にしろ女として!」
「ははは、だって津軽。お言葉に甘えて着替えちゃいなよ」
「え? ここで、か…?」
「いや隣を使え、使ってくれ頼むから!」


門田の決死のお願いで、津軽は着物を持って隣へと追いやられる。狩沢がぶーぶーと「ドタチンのケチー」などと騒いでいるがその意味は津軽にはとんと分からないものだった。いや、分からなくていいと誰もが思う。
隣の誰もいない座敷で、津軽は渡された着物と羽織を両手いっぱいに広げて眺める。薄い青と濃い青と、それをさらうように描かれる波飛沫。ストンと綺麗という言葉が落ちてくる。津軽はその広げた着物と羽織をぎゅっと腕にくるめて抱きしめると、自然笑みを零していた。