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ブギーマンはうたえない〈4〉

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そして数分後。着物は毎日着ているので別段着替えるのは苦にならなかった。脱いだ黒の着流しを片手にかけながら皆のいる座敷へ戻ると、「おお~」と四人それぞれに感嘆の声で出迎えられる。


「あ、採寸ぴったりじゃない!? さっすがわたし!」
「いやーカッコイイ人は何着てもカッコイイっスね~」
「うん、すごく似合うよ津軽!」
「ああ、いんじゃねぇか?」
「…そう…か?」


人から褒められるという行為自体が初めてかもしれない。兵器という存在上、できて当たり前のことはあれど人間のように誰かに認められるということ自体が本来はないものだ。新羅も分かっているんだろう。だけどあえてそうしてくれているのか、新羅は優しい男だった。
胸のあたりがほわりと暖かい。この感覚はなんていうんだろうか。高揚して、それでいて目の前にいる人たちが眩しいのかよくと顔が見れない。物理的に眩しいわけはないのに、凄く不思議だ。この気持ちをなんていえばいいんだろう。


「え…っと、あの…」
「ん?」
「狩沢…さん、…おれに、何かできることあれば…するから…」
「え? どゆこと?」
「あー着物のお礼ってことじゃないスかー?」
「あ、なーる」


遊馬崎に言われて何かを納得したのか、でも言われた狩沢はあははとまた爽快に笑って津軽に「いいのいいの!」と告げてきた。


「わたしが作りたかったから、お礼なんていいよー」
「…え、でも…。なんか…おれ…」
「?」
「なんていうか…こういうの、初めて、で…。おれ、ここがあったかくて…、どうしたらいいんだろう…?」


ここ、と胸を両手で押し当て、津軽は俯いてしまう。
感覚に戸惑って、でもどこか覚えがあるようで。これも静雄の記憶なのだろうか? でも曖昧すぎて、何と言っていいのか分からない。
俯いた津軽に、遊馬崎も、門田も、新羅も、そして狩沢も。少しだけ驚いた顔をしてから、そして口元を綻ばせた。
津軽の分かりにくい、だけど一生懸命伝えようとしている何かが、分かってしまうから。


「津軽君。ね、そのあったかいのって、"嬉しい"って言うんだよ?」
「え?」


津軽が顔を上げる。
狩沢がにこりと笑った。


「"嬉しい"時はね、その"嬉しい"を相手に伝えてあげるだけでいいの。そしたら私も"嬉しい"になるからさ!」
「伝える…?」
「そ! "嬉しい"時はね津軽君、相手に"ありがとう"って言ってあげるんだよ」
「あり…がとう…?」


狩沢の言葉を鸚鵡返しにして、口の中に含ませた。
胸の温もりが、増した気がして。どうしようと新羅に顔を向ける。
新羅は何も言わず、ただ津軽に笑いかける。それは、津軽が感じるままにしていいと言外に言われたようだった。


「…あ、」


津軽はまた狩沢に向き直り、胸を押し当てる手に力を込めて口を開く。
狩沢に、"嬉しい"を伝えるために。


「ありがとう…」


そして津軽は知らない。
その言葉を吐くと一緒に、自然に口元が綻んでいたことを。
まるで人間のように。


「~~~っううううん!!!」


いきなり狩沢が悶えた。


「ったっまんないっ! 天然イケメンを自分色に染めるっていう調教フラグっぽくない!? ねぇねぇゆまっち…」
「あ~あ~、狩沢さん…せっかくいい話になろうとしたのに…」
「いいからちょっと黙れ狩沢…」


"嬉しい"を伝えたのに、門田と遊馬崎は疲れたように、そして新羅は苦く笑って二人を見るのだった。

























ブギーマンはうたえない〈4〉