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もうひとつの日常

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あの男との出会い




海江田四郎がその男に出会ったのは、海自の一般公開の日だった。

海自の横須賀基地では、普段はいないような人数でごった返し、まるでお祭り騒ぎだった。いや、事実「フェスタ」として一般化以降しているため、家族連れや若者、自衛官の家族や防大生、それからマニア達でごった返し、売店からトイレから公開されている船へと長蛇の列が並び、民間人の相手をする自衛官の「ひぃぃっ、その計器に触るなつってんだろ~~!」「ぎゃあ!チョコレート食べた手で制服に触らないでくれえ!」「ああ~~!そっちは立ち入り禁止地区だって張り紙張ってあるだろ~~!!」「誰だ!子供から目を離した親はァッ!!」「船の便所で紙は流すなって書いてあっただろうが~~!」という決して顔には出さない悲鳴を他所に、やまなみのドックは我関せずと言わんばかりに静かなものだった。

潜水艦はあまりに機密が多いため一般公開はしない。

そのためほかの部下らは持ち回りの手伝いとして借り出されていたが、どういう手を使ったのか、このやまなみの艦長、海江田四郎は陸の悲鳴もすっきりと無視して、一人片付けなくてはならない書類と向き合っていた。その隣では山中も書類と向き合っている。海江田はちらりと書類に集中する山中の横顔を確認してから、ごく僅かに口角を持ち上げた。



「山中、私は少し出てくる。ここはお前一人で大丈夫だな?」
「えっ、あ、はぁ・・・、しかしどちらへ?」
「無粋な事を聞くな。少し、と言えば少しだ」
海江田がにこっと笑えばそれ以上は聞くことができない。大方手洗いだろうか、と予測をつけた山中は頷き、海江田が腹の中で笑ったことにも気づかずにその実直な性格で海江田を信じきって頷いた。





「やはり外は暑いな」

海江田がやってきたのはサマーフェスタをやっている、まさにその会場だった。
運なのか、なにか手を回したのか上手いこと面倒ごとから離れて艦での仕事を得ていたというのに、それでもわざわざ面倒の中にふらっと立ち入るのはこの男の持つ本来の好奇心なのだろう。元々仲間はずれにされるのを嫌う子供じみたところもある。制服を着た海自の幹部。それも二枚目の海江田は、すぐに何組かの民間人に写真撮影を頼まれ、にこにこと機嫌よくそれに答えては握手までしてやっていた。
まだ防大から海自にまわされてきたばかりの、頬にニキビの後の残るような若い新米たちが額に汗水を滲ませて焼きそばやカレーを売ったり、民間人に艦の説明をしたり、ときには迷子の手をつないでやっているのをぐるっと眺めては、まるで文化祭のようだな、と内心で笑った。こういう雰囲気は、嫌いではなかった。


「ったく、休日だってのにマニアがわんさと沸いてきやがる。普段はどこに生息してんだか分かんねぇのによォ」


そこへ男の声が海江田の耳に飛び込み、海江田は、この男もその“マニア”の一人なのではないか、と内心で苦笑した。
そのうちにもう一組の親子連れが一緒に写真を撮ってほしいと頼んできたので、母親に手を引かれていた小学校低学年くらいの少年に自分の被っていた海自の制帽を被せてやって写真を撮った。少年はにこっと笑って海江田の手に帽子を返して、大きく手を振りながらアイスクリームの屋台へと走っていき、その後を母親が何度も海江田に頭を下げて子供を追いかけていく。・・・・・・・そういえば、連れてきてやればよかったかな、とふと息子のことを思い出した。


「ほら、部長!!うちもこれくらいのサービス精神と規模でやりましょうよ!あの幹部自衛官みたいに上から下までみんなが民間人に親切にしてやり、印象をよくしてかつ将来の隊員と税金をがっぽり稼ぐ!いわば先行投資!!!予算40万程度がなんですか!将来的にガンガン予算だって分配されるようになりますから!!あと30万上乗せしてください!」
「こ、こら、両津!自衛隊のサマーフェスタとうちの署の納涼大会じゃ規模が違うんだ、規模が!」
男の声に重なるようにして、部長とよばれた男の声が重なった。


同業者だろうか、一体どんな男だろうか、とその男の方を振り返ったとき、男と目が合った。
背の低い、強烈な印象を持つ眉毛の男は、海江田と目があって「やべ」というように口を一瞬「へ」の形にゆがめたがすぐににやっと笑い、まるで古くからの友人にするようににかっと笑いながら海江田の下へとつかつかと歩み寄った。
「いやいや、こりゃご苦労様です!いやぁ、幹部様だってのに大変ですね!」
「りょ、両津ッ!」
「いってぇ!な、なにするんですか、部長!!」
馴れ馴れしく声をかけてきた男に、慌てて初老の男が駆け寄ってその頭上にゲンコツひとつを降らせ、頭を押さえ込んだ男を一切無視して“部長”は海江田に男の比例を詫びた。それにはさすがの海江田も目をぱちくりとさせる。良い大人というよりは、まるで餓鬼大将を叱りつける教師のようだ、と内心で苦笑した。初対面の人間に自分のボディゾーンに入ってこられるのはあまり好きではなかったが、しかしこの二人からは不思議と好感を抱いた。

「同業者の方ですかな?」
「い、いや、我々は自衛官ではなく警官です。警視庁新葛飾警察署巡査部長、大原大次郎、それからこっちが部下の両津勘吉です」

巡査部長と名乗った男は、私服だというのに律儀に敬礼をし、海江田もそれに敬礼で返した。
それを見ていた両津は呆れたように「あっつい中よくやるよ」と呟いたがそれを部長に拾われまたゴチン!と頭に拳を叩き降ろされていた。体罰反対!はんたーい!と小学生のように文句を言い出した両津を無視して、部長は海江田に「繁盛してますなぁ」とまるで商売ごとのようなことを言い出し、海江田は自然と微笑んだ。なにやら好ましい二人だと思った。


「一応、一大イベントですからね。もっとも、私はすっかり手持ち無沙汰でしてね。・・・すぐに私を追って忠義な部下が探しに来ることでしょう」
それまでには逃げてしまわなくては、と笑った海江田に部長はきょとんとするしかなかった。
「そういえば、イベントには何故?一般参加ですか?それとも警視庁の方からの任務など?」
「任務!?い、いやいや、まさか・・・」
「ただのスパイですよ、ス・パ・イ」
「こ、こら、両津」
座り込んでいじけたように爪を弾いて垢を飛ばしていた両津がそう掃き捨てるように言い放って、立ち上がる。そしてぐるりと辺りを見回して、カレーやおでん、清涼飲料水などを売っている屋台をアゴで指した。


「もちろん機密のスパイなんかじゃないですよ、そりゃ。アレですよ、アレ。」
「・・・屋台?」
「そ、再来週うちの署で地域の民間人を呼んでの納涼大会があるってんで、企画を任されたんですよ。民間ならともかく、うちも一応税金で回ってるもんだからどこまでやって良いのかと偵察に。まあ、おたくらほど厳しくはないんだけどな」
あーあ、ほんとまいっちゃうよなぁ、といつのまにか「です・ます」の抜けた両津は言葉こそ気だるげに言うが、その企画を楽しんでいるような表情をしていて、海江田は知らずに笑みが漏れた。自分が警察の人間だったとしても、おそらくこの男を選んだであろう。いかにも祭りやイベント、行事ごとが好きそうな男だ。
作品名:もうひとつの日常 作家名:山田