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もうひとつの日常2

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・・・・大統領執務室を、あんな軽いスキップで出て行った大人なんて初めて見た・・・。
どうも僕はパパの子供らしい。まるで嵐でも去っていったかのように、僕はパパの肩に手を置き、パパは僕を抱き上げたまましばらくぽかんと、僕ら二人はアルフレッドの消えていったドアを見送っていた。



「あ、そうじゃなくて・・・僕、まだアルフレッドにお礼を言ってないのに!」
「まあいいさ。アレならいつでもここら辺をうろうろしているから。しかしマルス、アルフレッドだったから良いものを他の不審者にひょいひょい付いて行っちゃいかん。パパは子供の頃からきちんと相手を見極めて・・・」
「ねえ、パパって子供の頃プロムクイーンにこっぴどくフラれた事があるって本当?」
「・・・・誰かあいつを連れ戻してこいッ!!!」


しかし、あ、は、はい!と慌てて出て行った秘書やシークレットサービスの手なんてアルフレッドはするりと抜けて、親でも兄弟でもない懐古主義の口うるさいやつに会うためにさっさと口笛交じりに遠くに行ってしまっていた。






次の日曜日、パパの執務室の窓ガラスにひょっこりと顔を出した僕を見つけるとパパはそれまで向き合っていた書類からペンを置いて、ネクタイを外して、シャツの腕をまくって、窓ガラスを大きく開けて、窓から庭に下りてきた。びっくりする僕や秘書やシークレットサービスなんてまるで気にしない様子で声をあげる。


「さて、私はかなり、良い球投げるからな」
「でもグローブが・・・」
「なに、息子の球だってなんだって、息子の事なら素手で受け止められる」

その言葉の意味を5秒遅れて理解して、僕は大きく頷いて、間隔をあけて立ったパパの手に向かって、真っ白な球を投げた。そしてパパの腕を大きく越えて跳んでいった白球は、一瞬空の光を受けて真っ白に輝いたかと思うとそのまま派手な音を立ててホワイトハウスの窓ガラスを割り、けたたましい防犯ベルの音が鳴り響き、






ワシントンに住んでいてワシントン・ナショナルズの由来を知らないなんてとんでもないね!ましてや君はホワイトハウスに住んでいるんだから!なに、ホワイトハウスの連中なんてみんなインテリでお堅いように見えても、俺に言わせれば羽目のはず仕方を忘れただけのただの少年たちさ!ナショナルズは1859年にホワイトハウスの職員達によって作られて、みんな昼休みにホワイトハウスの裏庭でキャッチボールから練習したものさ!窓を割らないでくださいよ!って古株のメイドに睨まれたものさ!あはは、おっかしいよね!ホワイトハウスのインテリが一番怖いのは大統領じゃなくって、こわ~い女性のメイドだったんだから!



君のパパだって、本当は君に遊んでもらうことを楽しみにしてた筈だとも!







日本のSEIZAという形で座り込んだ僕とパパを、ホワイトハウスで仕事をして半世紀以上の女性のお説教はたっぷり2時間は続き、パパの秘書がどうか、どうかそれまでにしてやってください、と頭を下げてなんとか逃れることができた。

アルフレッド、やっぱり一番怖いのは大統領じゃないね。



でも、一番好きなのは大統領だよ!!
作品名:もうひとつの日常2 作家名:山田