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もうひとつの日常2

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Tシャツを脱いでそのTシャツを受け取って着込む。どこかにパパラッチがいて、大統領ご子息公園で半裸なんてスクープされないかとか、もうなんだかどうでもよくなった。なんだかそんなことはどうでも良いことで、とても遠いことになった。きっと明日にでも学校に行けば、ただの平凡な一生徒になってしまうような気がして、それはすっごく気分の良いことだった。そしてI love Dcの揃いのTシャツを着込んだ僕らはすっかりワシントンDCの観光客になってしまった。


ぐしょぬれのTシャツを絞る僕の横でアルフレッドが心配そうにラジオを新しいシャツで拭う。
なんだかアルフレッドなら「あ、それソニーの最新モデル?じゃあそっちにするよ!」とか言いそうなのに、そんな旧式のラジオを心配そうに拭くのがなんだか不思議で、つい「誰からもらったの?」なんて尋ねてしまってアルフレッドを驚かせた。でもそんな古いラジオを今時使っている人なんて想像ができなくて、もし死んだおじいちゃんからの形見なんだ、なんて重い話になったらなんて言ったら良いんだろう、と息を呑んだ僕にアルフレッドは笑った。

「親っていうか、兄弟っていうか、なんていうか、まあ、口うるさいやつから貰ったからね。大切に使ってやらないと後がうるさいだろ?」
苦笑するように笑ったアルフレッドに、なんだか僕は少し照れ臭いような気持ちになった。
きっとアルフレッドの大事な人なんだろうな。・・・・僕の大事な人は、家族だ。

でも、


「よし、じゃあちょっと球場まで行こう!」
「ええ!?結局行くの!?しかも今から!?」
「だってそれがメインイベントじゃないか!!」
何言ってるんだい、と口を尖らせたアルフレッドに、僕はやっぱりこいつは理解できない、と真底思った。



アルフレッドに連れられていったのは、ロバート・F・ケネディ・メモリアル・スタジアムの一角だった。1961年から使われているスタジアムはすっかり貫禄がある。確か、ロバート・F・ケネディ大統領が暗殺された事を受けて名前が取られたんだと学校で習った。そこをアルフレッドはぶらぶらと歩きながら、「あ、このピッチャーが神経質なやつでさぁ、仲間がベンチでピーナッツの殻を捨てたり、唾やガム吐くとすっごく怒るんだよね」だとか「ああ、彼なんて愛妻家でさぁ、奥さんが産気づいちゃってってな試合の時にこのホームランを息子にささげる!!!なんて叫んでホームラン打っちゃったんだけど、生まれたのは女の子だったんだよね、あ、でもすぐに娘にでれっでれになったとも」だとかまるで知り合いの話でもするように大昔の選手のことを話していく。


「それ作り話?」
「まさか!ヒーローは嘘なんてつかないさ」
とにやりと笑ってまたベースボールとは関係ないところでの話を続ける。でもそれが面白くって、僕はすっかり聞きいって、次は次は?と顔写真のパネルを指差して続きをねだった。アルフレッドはそのたびにもったいぶるように「ああ、こいつか・・・うーん、とこいつはなんだったかなぁ」と焦らして更に僕に強請らせてからたっぷりと話をしてくれた。







「そういや、君はワシントン・ナショナルズのできたわけを知ってる?」


一通りぐるりと見物してまわり、出口で売っていたホットドックにかぶりついた僕にアルフレッドは尋ねた。
突然のことでホットドックを口にもぐもぐさせながらきょとんとする僕の口元をナプキンでぬぐって、ケチャップ、と笑うアルフレッドに首をかしげる。球団のできたわけ?
口の中でじわっと肉汁の溶け出して、皮がパリパリと張り詰めたようなソーセージ、それから甘酸っぱいようなケチャップの混じった繊維を奥歯でしっかりと噛み締めて、僕は首をかしげる。アルフレッドはホットドックに手もつけないで僕からの答えを待っている。ごくん、とホットドックを飲み込んで、そんなの・・・、と言いかけて、答えに自信がなくて小さな声で言う。


「そんなの・・・、そんなの、ベースボールが好きな人が集まったからでしょ?」
「そうさ。それで、ベースボールが好きなどんな人が集まったと思う?」
「そりゃ・・・リトルリーグの子供たちとか?」
「うーん、はずれ!」
いやぁ、惜しいねぇ、あ、うそ全然惜しくないやまったく!と笑ってアルフレッドは自分のホットドックに大きな口をあけてかぶりつき、ん~~、と幸せそうな声を出してホットドックを堪能する。まさか続きを教えてくれる気がないんじゃないか、とその続きをねだると、アルフレッドはホットドックを全部食べきって、Lサイズのコーラを飲み干して、ポテトを半分殻にしてしまうまでたっぷり僕を焦らしてからようやくにやりと笑った。


「お堅いホワイトハウス職員さ!」


ホワイトハウスの人間と、球団を設立するような人間。そんなのが「=」で結べなくて驚いたままぽかんと口を開けた僕の口にポテトを一本放り込んで、ホットドック屋のおじさんに「ちょっと聞いてくれよ!弟ったらワシントン・ナショナルズを作った連中のことすら知らないんだってさ!」と笑いかけておじさんも「そりゃとんでもねぇな!」と笑った。












「アルフレッド!!!息子に変なことを吹き込んだりしやしなかっただろうな?」
「おーっと、まさか大統領は俺がそういう、“ご子息”をたぶらかすようなやつだとでも思っていたんだ!?」
ああ、もう心外でどうにかなってうっかり口を滑らせて大統領の下着の色まで暴露してしまいそうだよ!と悲劇のヒロインのように額に手を当てて僕に倒れ掛かったアルフレッドにパパは「アルフレッド!」とまるでしつけの悪い犬か子供でも叱るように声を上げて、アルフレッドは、あっはっは、とまるで悪びれずに笑った。どうも、パパよりもアルフレッドの方が一枚も二枚も上手で弱点まで握られているらしい。

パパは心配そうに僕とアルフレッドを見比べて、僕らがお揃いのI love Dcシャツを着ているのを見て、今度は呆れたように溜息を漏らした。アルフレッドが横から「あ、君の顔がプリントされたTシャツもあったんだけど、そっちの方がお好みだったかな?」と茶化してパパは精一杯皮肉を言うように「いいや、合衆国で一番有名でシンプルなデザインにしてくれて私は嬉しいよ」と言ったけれどそんな皮肉なんてアルフレッドにはさっぱり通用しない。

「じゃあ今度はもっと良いデザインを考案するようにさせるよ!いっそ海兵隊のアクロバット部隊の機体に歴代大統領の顔でもペイントさせようか?Tシャツよりよっぽど良い!」
「・・・・・・私は君に比べれば随分保守的な人間らしい。今のままで、十分、だ!」
「そう?じゃあ予算の無駄遣いもなくていいね!これで満場一致だ!でも、君とマルスの関係はもうちょっと近くなっても良いんじゃないかな?そこはまだまだ“改革の余地”ありだね!君らはまだまだ開拓地だとも!」

アルフレッドは歌うように叫んで、僕をひょいっと抱き上げたかと思うとパパの腕に強引に押し付け、パパが僕を抱きとめるとそのままくるりと踵を翻して「じゃあね!今日は楽しかったよ!俺はこれから懐古主義の所へ行かなくっちゃいけないからさ!!」と笑って手を振って、スキップでもするように出て行った。
作品名:もうひとつの日常2 作家名:山田