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Cb.Senza sordino

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一度切った楽章の間にメンバーが楽譜を捲る音が響く。さぁ、次は栄口の出番だよと指揮を向けると、意思の強い瞳と視線が交錯した。
響くコントラバスは今までにも増して重厚さが加わっていて、栄口が弱音器を外したことを知る。
懸命に弦を揺らす指だとか、コントラバスを奏でる体や指揮を見つめる瞳を愛しいと思う。
意識して気付いた恋心をこめて、思うがまま指揮を振った。


激しい四楽章を終えて達成感に満ち溢れたメンバーに、まだ終わりじゃないとばかりに指揮を構えるとコンマスの痛い視線が突き刺さる。
マーラーが第二楽章のために書き下ろし、けれど差し替えられてなくなってしまった花の章。 たった一度だけ合わせた未完成の曲。
百枝先生が何も言わないから良いじゃないかと阿部に合図を送ると渋々バイオリンを構えてくれた。
たじろぐメンバーには見ないふりをする。
マーラーがのこした恋の曲を、今俺はどうしても奏でたい。

栄口、俺もお前のことが好きだよ。

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「うん、すごく良いと思うよ」

全ての演奏を終えた後に百枝先生一人の拍手が響き、第一声の賛辞にメンバーが緊張を緩めるなか、一人背筋がつめたくなる。

「ただし…水谷くん。花の章はやらないって前に言ってたのにやるってどういうこと?しかも中途半端!」
「いだだだだだだ!」

頭に響く痛みを甘んじて受け入れる。だって確かに俺が悪い。
罰を受けている俺を恐怖の目で見つめるメンバーの中に栄口を見つける。
瞳が心配の色に染まっているのにへらっと笑うと、栄口の眉が下がった。

精一杯の指揮をした。
恋を奏でる曲へ乗せた想いは、栄口に少しでも届いただろうか。
総評を告げて百枝先生がいなくなったらすぐに伝えよう。

その気持ちを恥じないで欲しい。俺はもう一度、消え入りそうではない栄口の確かな告白が聞きたいんだ。
作品名:Cb.Senza sordino 作家名:東雲