共犯者
私の話した「寺子屋」という子供に教育を施す施設を本当に取り入れ、実行した。
まずはハレムの子供達に礼儀や国の成り立ちや読み書きや宗教を教えるようになると、子供達は今まで得体は知れないがとにかく尊敬しなくてはならないスルタン、という認識からより現実的な目でスルタンである彼を尊敬するようになった。また彼は寺子屋の設備を城下にも増やして、子供の読み書きの力を高めて国の国益に直接繋がる商売の制度も整え、無料で奉仕する医学所まで立てるようになった。それまで戦をして領土を広げるばかりであったスルタンから、途端に自分たちに利益が返ってくるようになったことで民は彼を尊敬するようになっていき、彼の人気は高まった。一度など、彼は自分の姿(それは彼の姿を見た事のない民の想像上の姿であったが)が描かれた皿や絵を持ってきては、得意げに笑った。
しかし、国民に宛がうための金を捻出してきた場所は、ここ、ハレムからだった。
ハレムの女の数も最初の頃よりもずっと減り、それまで豪華絢爛な衣装を身に纏っていた姿からどんどん質素なものへと変わっていく。その事に女たちの静かな怒りと不満が上がっていくことも、彼はきちんと理解していたはずだった。自分の人生と自由を奪われた代わりに、彼女達には贅沢をする権利があった。もうこのハレムの外から何処へも出られぬ体となった代わりに、世界中の珍しいものが与えられるはずだったというのに、今ではただ閉じ込められているだけに過ぎない、と。
そしてその怒りはまさかスルタンに向けられるはずもなく、彼をそそのかしている私の身へと降りかかる。
あっ、と振り返った時には遅かった。
まるで奈落の底へとまっさかさまに堕ちていくような浮遊感と空しさに喘いだ腕が虚空を霞め、私はそのまま意識を手放した。