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共犯者

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02、女



男が私に個室を与えたとき、私はこのハレム中の女達から憎まれる存在となった。



ハレムの女たちは、なるほど私の国の女よりもずっと背も高く豊満な肉付きや臀部を持ち、様々な場所から連れてこられたようで肌も、髪も、瞳も、それぞれどこかが違う個性があった。ただどの女も気が強く歯を食いしばってこの豪奢な鳥かごの中で生きていこうと必死の様子であった。そこへ突然現れた、この特別な美しさも何もない私。彼女達にとって私という存在はスルタンが気まぐれに気に入った異国の珍しい品種という程度であっただろうが、しかしハレムに入って一週間後、すぐに個室の与えられた私にただの珍しい玩具ではないとすぐに悟ったらしく露骨な敵意を見せるようになった。だが彼女達と親しくなって“秘密”を知られるわけにもいかないので、彼女達の社交の輪に入る事もできなければ食事も共にさせてもらえないことはむしろ好都合であった。





サディクと名乗ったこの国の王は、脅すようにして「いっそお前の性器も切り取ってちまうのも良いかもな。ハレムの男はみんな玉ナシだからよ」と笑ったが、それは流石にぞっとした。特別男色を心得ているわけではないが、それでも同じ年頃の若者のように女体を求めたこともないので大丈夫だと告げようかと思ったが、いかにも命乞いをするようで口惜しくて黙っていれば、男は豪快に笑って私の頭を撫で繰り回した。



「いいや、アンタのこの餓鬼みてぇな体がそれに堪えられるとは思えねぇからな。ハレムの宦官たちも皆奴隷だ。ここをちょん切っちまって、熱い砂漠の中に首まで埋めて熱砂で消毒して、生き残ったやつだけが宦官として売られてくるのよ」



男が機嫌よくラクと呼ばれるこの国の酒を煽りながら、私の股間を軽く触った。
その話の残虐さにか、男の手にか分からないけれど口を歪めた私に男はまた笑った。
そうして笑う口元は、やはりこの国の王としての一種の傲慢さが見えたけれど、男が傲慢であれば傲慢であるほど、何故か私の胸が高鳴った。









男は初めに言った通り、私にこの国の女の装束を着せた。
他の女たちよりもいくらか露出されない装束を着て、男の手によって紅を塗られた自分の姿は妙なものだったが、確かに女子に見えないこともない、というか立派に女の姿になって男を満足させた。個室を与えられた私は、最初に2,3日はハレムの内部を歩いて回ったけれどもすぐに部屋に閉じこもるようにした。いつ秘密が知られるとも限らない。なるだけ他人との接触を避けるように部屋に閉じこもり、男が与えた簡単な本を読む日々は、思いのほか快適だった。何もしなくても衣食住は保障され、随分分野は変わってしまったけれども勉学を続けられる。


『あー、なんだか恵まれているかもしれませんねぇ・・・』



男も積極的に部屋へとやってくるが、別に伽をするわけではない。
素顔は未だ分からないが、好奇心旺盛な男は私の国の話を聞きたがった。知っている事、国のしきたり、村の掟、民話、ささいな思い出、幕府、伝説、その手のことを話して利かせるときは、なぜだか自分が彼の親にでもなってしまったような気分だったけれども、楽しげに聞く男に不満はまるでなかった。国家的な鳥かごから自由を求めて飛び出したというのに、それよりはるかに小さな鳥かごに閉じ込められた事を思えばいささか情けない気がしないでもなかったけれども。








「そうか、テラコヤね。そりゃ良いな。うちでも試験的にやってみるかな・・・」
「ではまずはハレムの子供達にしてみてはいかがです?ここには存外子供が沢山いますし、彼らはいずれこの国の中枢を担うようになるでしょうから、貴方の都合の良いように教育していけば良いのではないでしょうか」
「なんっか棘があるが、まぁ、それは悪くないな」



男はすぐに何か考えるように顎を押さえてナルギルを咥えた。
この部屋の外で、女達は私達二人が一体どんな淫猥な行為を繰り広げているのだろうか、秀でた美貌のない私は恐らく床の中で壮絶な技術を駆使してこの男の心を掴んだのだろうなどと噂していたけれど、こんな様子を見たのならきっと腹を立てるに違いない。



「何がおかしい?」
「え?ああ、すみません。なんだか奇妙なものだと思いまして・・・・・」
そう告げると男は私の言いたい事を心得ているのかにやりと笑った。



「奇妙なものが嫌なら、本当にアンタを抱いちまっても良いんだぜ?」
「それはまた・・・・・・でも趣味じゃないでしょう?」
「まあ、食えない事もないが、俺としちゃもうちとむっちりとした女が良いかな。アンタは腕の中で折れて死んじまいそうだ」
「一体どんな乱暴な事をするつもりですか・・・・・・」
はぁ、と溜息を漏らせば、ふいに男と目が合った。そしてお互いの目を見つめあいながら、どちらともなく噴出して笑いあった。




男はいつの間にか畏怖の対象ではなくなり、その地位を越えて言ってしまう事が許されるならば“友”だと言いたいような気持ちになっていた。今までそんな存在に恵まれなかった私は、男の存在にいくらか安堵すら覚えるようで、男が部屋を訪ねてくる日を心待ちにしているときでさえあった。














そんな日々を繰り返していくうちに、男は私の部屋に入り浸るようになった。


部屋に何日も入り込んで政の相談をさせるような日が続き、男が入り浸れば入り浸るほど、私はハレムの女に憎まれた。一度などは飲もうとした水からあまりに異臭がするので、その水をネズミに与えてみえば、ネズミは哀れにもコロリとひっくり返って死んでしまったのだからいよいよ私は「敵」なのだと実感した。彼女達が、私をどれほど憎み疎んだ所で私はあの男の最愛ではないのだと思うと、なんだか奇妙な感覚で足元がぐらぐらと揺れるような気がしたが、そうやって痴呆めいた具合に一日呆けている間に毒殺でもされれば困るので一応男にネズミが死んだ水の事を告げれば男は唇をにたりと持ち上げて笑った。



「そいつァ、吉報だな。アンタが憎まれてるっつぅことは、そんだけ芝居が上手くいっているっつぅ事だからよ」



すっかり嫌われ者だなと男はゲラゲラと笑ったので私も溜息を漏らした。
まあ、こうして笑っているうちにぽっくり死んでしまうのも良いかもしれない。ただ私が死んだとて肉体は故郷には帰ることはできないのだろう。国を出てからもう何年も経ってしまったような気がするけれど、国の家族は私がどうなっているかなんて微塵も知らないのだろう。帰りを待たせるのも難儀な話だから、死んでしまったのならばせめて「死んだ」とだけ告げて教えてやりたいが、それはまあ、幽霊になるとかなんとかする手段があるかもしれない。



「でもまぁ、アンタがこんな所で死んじまっても困るから、今度から食事は俺と同じものをとれ」
「・・・・・・・と、いいますと?」
「寝食をいよいよ共にしちまおうって話だ」
「・・・・・・人の目が気になりますね。今まで以上にずっと気をつけないと」
そういうこった、と男は屈託なく笑った。










そうこうしているうちに、男は本当に国を変え始めていた。
作品名:共犯者 作家名:山田