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たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
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The Garbage Can Story

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 ぼんやりと煙草をくわえた顔は、どこか空虚なほど静かだった。
 サングラスを胸ポケットにしまって、切れ長の目をひたとどこかに据えたまま、半開きの唇に煙草を挟んで紫煙をくゆらす。
 ほっそりして見えてその実ひどく強靭な喉に、喉仏が時折ぐぐりと動く。
 薄い唇が、ふ、と細く煙を吹く。
(…大人みたい)
 そう思ってしまってから、紛れもない成人男性に「みたい」とはなんだと自分で自分に苦笑する。
 だがすいすいと道を歩く平和島静雄は、帝人が初めて見る「大人のかお」をしていた。
(ふしぎなひとだなあ)
 静雄がまたこちらをみて、ふっと笑った。






「ちゃんとあったかくして寝ろよ」
 帝人は思わず吹き出した。
 静雄が渋い顔をする。
「…あんだよ」
「や、ごめんなさい、ちょっと、…平和島さんにそんなこと言ってもらえると思ってなかったんで」
 帝人が笑いを堪えながら言うと、静雄が更に眉間に皺を寄せた。凶悪な顔になっている。
「…俺が言っちゃ悪いかよ…」
 悪くないです悪くないです、ありがとうございます。
 帝人は一気に言ってぺこんと頭を下げた。
 街頭の下で静雄ががりがりと頭をかき回す。
 今度はまるっきり、いつもの平和島静雄だった。
 ───帝人のアパートの前に着くと、静雄は一度アパートを矯めつ眇めつし、一言「ボロいな」と呟いた。帝人ははい、と心の底から同意した。
 それからひとしきりまた静雄は帝人にぐちぐちと謝り──もういいと言うのに、まさに「ぐちぐちと」──、最後にぽつんと先ほどの台詞を呟いた。
 笑いの発作をどうにかやりすごし、階段の前に立った帝人が鞄から鍵を取り出すのを見て、僅かに赤い頬をした静雄はきびすを返しながら言った。
「じゃあな。なんかあったら呼べよ。…今日は悪かった」
(まだ言うか)
 帝人は半ば呆れながらも、その最後の言葉に滴るほど後悔がつぎ込まれているのを感じ、咄嗟に登りかけた階段を駆け下りた。ぎゃじぎゃじ言う。ほんと大丈夫かこのアパート。
「平和島さん!」
「あ?」
 大股に歩き去りかけていた静雄が、びっくりしたように振り返る。  
 帝人はその胸につっこみそうになり、すんでのところで踏みとどまる。
 初めて至近距離で見上げた静雄は、やっぱり子供のような顔をしていた。
「これ、もらって下さい!」
「ああ?」
 コンビニの袋を突きつけると、静雄は軽くのけぞった。眉間にきゅっと皺がよる。とれなくなりますよ、と帝人はおせっかいなことを考えた。
「あげます、今日のお礼です。食べてもいいし、捨ててもいいです。とにかくあげますから!」
 まくしたてると、静雄は気圧されたように「お、おう」と呟いて白い袋を受け取った。
「でも礼って、お前、」
「お礼です。今日は静雄さんにたくさんお世話になったのでお礼したいんです」
 そう言うと静雄は困惑したように瞳を揺らした。
「だってよ、俺は」
「いいんです!」
 平和島静雄の台詞を遮るなんて、僕はなんてクソ度胸がついたんだろ。帝人は笑う。
「僕がいいって言ったらいいんです。静雄さん、今日はほんとにありがとうございました。静雄さんの投げたゴミ箱…から飛んできたペットボトルに当たって寝不足分取り戻す程度に気絶したのなんか、全然チャラにするくらい、僕は今日嬉しかったんです。だからお礼であってんです、ありがとうございました!」
 言い切ってばっと頭を下げると、暫しの沈黙の後、くつくつと笑い声が降って来た。
「…ああ、分かった分かった。じゃ、ありがたくもらっとくわ」
「はい」
 帝人は顔を上げて笑った。
 静雄は照れくさそうに笑うと、ふと気がついたように言う。
「そういやお前、」
「はい?」
「やっと静雄って言ったな」
「…あ」
 帝人は目を瞬かせた。
 ───『静雄さんって呼んでいいですか』。
(すっかり忘れてた)
 静雄はまた、今度は穏やかに笑うと、帝人の頭をくしゃりと撫でた。
「じゃあな、…帝人」
 



 ぽかんとその背を見送って、もうバーテン服も金髪も、街灯のずっと向こうに消えてしまってから、帝人はようやく呟いた。
「…ていうか、帝人って…」
 なんだか頬が熱い、気がする。
 急にいたたまれなくなった帝人は、近所迷惑な音を立てて部屋に駆け込むと、制服も脱ぎ散らかしたまま布団に飛び込んだ。
(ていうか、頭…!)
 ───その夜、帝人は金髪のバーテン服の夢を見た。






 そしてその夢のあまりの乙女思考っぷりにいたたまれなくなった帝人が、避けるほど出会いもしない静雄を徹底的に避け、一悶着起きるのはまた別の話───である。