鉄の花/月色リボン/天使は星に
天使は星に
「あゆを連れて行くのね」
「うん。ごめんな」
「どうして?」
「返してやれないから」
ゆっくりと首を横に動かした。そんなことはない。寂しいけど、それはいいんだ。そんなことよりも、嬉しさの方が大きいから。
「いい。だから、きっと、きっと、幸せになってね」
「ああ」
「あゆなら、絶対大丈夫だから」
あの子ならきっとあなたの暗闇に呑まれない。天使の羽根は星のように輝いて、彼の夜を照らすだろう。きらきら、きらきらと。その輝きをあなたはそっと守るのだろう。
「絶対幸せにするし、なるよ」
その笑顔はあたたかだった。夜の海のように冷たい闇は消え、黒々した目には、きれいに咲いた花を見つめるようなやさしさが満ちていた。
それは、穏かに抱きしめ、柔らかく包まれる雲のような愛だろう。寄り添いあっても傷つかない。傷つけない。だからきっと、もうあなたはあんな顔をしないくていい。あの子はもう泣かなくていい。
「もう大丈夫なんだね」
嬉しくて涙が零れた。大好きな二人。すごいものを造りだす、自由で孤独な人。やさしくてきれいでしなやかな、天使のようなお友達。この二人ならきっと幸せになれる。この人はもう何にも縛られずどこまでも行ける。孤独も寂しさも吹き飛ばしてくれる人と一緒に。あの子は高い塔から降りて、自分の足で歩いていける。背中を押してくれる人と一緒に。
「ああ」
「よかった」
作品名:鉄の花/月色リボン/天使は星に 作家名:川野礼