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透明の向こう側

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暖かい人肌に久々に触れた文貴が零す涙を拭う勇人の優しさに、凝り固まった身体と心が溶けていく。母方の遠縁の家というだけでこの身を預けなければならなかった文貴は、何でもない振りを装いながらその実、怯えていた。
訪れたこの家はとても優しさに充ち溢れていたけれど、それでも寂しくて仕方が無かった。争いや血にまみれていてもいい。故国へ帰りたいと夜ごと零れる涙を止める術を知らず泣き続けた。
それを止めてくれたのが、勇人だった。
いつも太陽の下に輝く花のように笑う、勇人が心を開かせてくれた。少しずつ少しずつ、信頼を与えてくれたのに返すように心の内を見せる。最初は怖くて仕方が無かったけれど、今ではそれが当たり前のように思えるようになったのは、毎晩共に泣いてくれた勇人のおかげだった。
温かい温もりも溶けるような優しさも全部、勇人が与えてくれたから返せるようになった。人を信じるということを思い出させてくれたのも全部、勇人がいたから。
守られることしか知らなかった文貴が初めて他人を守りたいと思い、願った。その術を身につけるために、苦手な剣術の稽古も、勉学も、しっかりと取り組むようにした。
「文貴、どうかした?」
この家に来たばかりのことを回想して足を止めた文貴を勇人が振り返る。丸い瞳を輝かせた一回り小さな体を抱きしめて、文貴は願う。
国を捨てた王子にいつか必ず降りかかるだろう罰が、どうかこの優しい勇人にまで降りかからないよう。
「……勇人の目がきれいだなぁと思って」
閉じ籠めた身体が照れにじたばたと動くのを力で抑えつけた。耳が真っ赤になっているのを満足気に眺めて、気付かれないようにその髪に唇を寄せた。

作品名:透明の向こう側 作家名:東雲