Cry For the Moon
静雄はもう一度空を見上げる。雨はまだまだ止みそうになく、空は暗くどんよりとしたままだ。
月が出ればいい、と思う。彼が好きだった。
・・・帝人が、好きだった。
静雄さんの髪みたいと笑った帝人の映像が、時折ノイズを交えながら再生される。ああ、ああ、この記憶がなくなってしまったら、自分は壊れるよりも辛いだろうと、そんなことを思う。
そういえば、月が欲しいと泣くことは、無いものねだりという意味だった。
既に使い道の無い辞書ツールのレスポンスに、さび付いた手のひらを握り締めた。あとどれくらい永らえるのだろう。薄れていく三日度の笑顔をもう一度再生すると、あざ笑うかのようにノイズが一筋、記録の一部をのっとっていく。
なあ俺が壊れたら、また会えるのか。
そうしたらこの髪を洗ってくれよ、お前が好きだといった色に戻るまで。
見上げる空は、遠く、遠く。
無音の世界に、また、朝が来る。
作品名:Cry For the Moon 作家名:夏野