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郵便受けを覗くと、数多くのダイレクトメールに混ざって、手紙が一通届いていた。Eメールでのやり取りが主流になっている今、手紙が届くことだけでも珍しいのに、しかもそれはエアメールだった。エアメールなど届く当てなど全くないので、怪訝に思いつつも差出人を確かめると、日本からのエアメールで、鳴海まどかから送られてきたものだった。これまで全く連絡など取っていないし、そもそも接点のあったあの頃だって、特に親密な間柄だったわけでもない。どうして今頃になって彼女から手紙が届いたのだろう。部屋に入るとすぐに封を開けた。
封筒の中には一枚の便箋と、封がされていない手紙がもう一通入っていた。手紙の中に手紙が入っているという状況に戸惑いつつも、まずは便箋から目を通してみることにした。そこには私の疑問に対する答えが、書いてあった。
『拝啓
若葉の薫る頃となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。突然私から手紙が届いて、とても驚かれているでしょうね。
先日、あの子の物を整理していたら一通の手紙が出てきました。宛て先が書かれていなかったので、あの子にも相手の方にも申し訳ないと思ったのだけれど、内容を確認しました。おそらくはあなたへ宛てたものだと思います。どうしようか悩んだ結果、清隆さんに無理を言ってあなたの住所を教えてもらいました。
あなたが読むべきか、読まないべきかは私には分かりません。でも、あなたに届けたほうが良いと思ったから。
乱筆乱文お詫び申し上げます。時節柄お身体ご自愛くださいませ。 かしこ。
鳴海まどか』
改めて、同封されていた手紙を手にして、眺めてみた。まどかさんからの手紙の通り、真っ白な封筒には宛て名も差出人も全く書かれていない。
このまま手紙を捨ててしまおうかとも考えた。あの彼が手紙を書くなんて、一体何が書かれているのか、推測出来なくて怖い。でも、私のもとに届いているということは、彼も読まれることを期待していたはずだ。意を決して、彼からの手紙を広げた。
書かれていたのはたったの一言。だけどその一言によって、私の視界はゆっくりと滲んでいった。
「…そんなの、私も同じですよ。」
小さく手紙への返事をつぶやくと、視界の滲みはさらに酷くなったけれど、私にはどうすることも出来なかった。
『きっと、あんたのことが好きだよ』