二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ゆめみごと

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
通信回線で連絡を取ろうと思って回線を開いてみても、モニター越しに映る彼の研究室に人影は見当たらない。一度目の通信は一方通行のまま終わった。少し時間をおいて二度目のそれに試みるも、結果は同じ。三度目の正直だと思って、再び彼に繋げてみても相変わらず不在を知らせるモニター画面。

(まったく…正チャンってばどこに行ったんだか)

仕方ないなぁ…と呆れながらも笑みを含んだ溜め息をこぼし、白蘭は自室を後にした。





とある研究室。辿り着いたその扉前で白蘭はいったん足を止めた。そして勝手知ったる手つきで、ピピっと電子音を響かせ部屋のロックを解除する。シュッと扉がスライドして、視界にうつった薄暗い室内は、パソコンから漏れだす光が一際存在を放っていた。

「正チャーン?」

室内に一歩足を踏み入れて声をかけてみるも、反応はない。見ての通り不在なのだろうかとそのまま足を進めていくと、床に散らばる書類やら文献、と、それに埋もれるように倒れている探し人。

「ちょっと正チャンだいじょーぶ!?」

散乱した紙類をかまわず踏んで正一のもとへ近づく。膝をついて、倒れている身体を起こそうと彼に触れてみれば、服越しに伝わる熱い体温。そこから聞こえてくる、熱を持った荒い呼吸音。正一の状態はまぎれもなく高熱にうなされる人のそれだった。

(こんなことならもっと早く来ればよかった)

一体いつからこうなっていたのか。今さら悔やんでみても遅いのだが、そう思わずにはいられない。それでも後悔の念には早々と区切りをつけ、白蘭は部屋の中を見渡す。
スクリーンセーバーが作動しているパソコンの横には、転がったり綺麗に直立している缶コーヒーの数々。ここからは確認できないが、おそらく中身はぜんぶ空なのだろう。彼が作業中愛用しているヘッドフォンは机からぶらりと垂れ下がり、細いコード一本が命綱となって地面との接触を免れている。
この部屋はあくまで正一の研究室であり私室ではない。居住を目的としたそれはきちんと与えられているのだが、彼はなかなか忙しく、研究室とはフロアの違う私室に帰るのが面倒に感じていたらしい。そのためこの部屋には、研究室でありながら正一が運び込んだ簡易ベッドが備え付けられていた。その本来なら休息に使うべきそれは今、研究データやら書類やら文献やらに占領された、ただの物置き場と化していたが。

(うーん、これはひどい)

ここのところ忙しいのは知っていた。なにしろ彼に仕事を与える立場の人間なので。それにしたってこの部屋の有り様はひどい。こんなことを正一に言えば、ひどいのはあなたのせいでしょう?!と責められるのだろうが。容易に想像できるものだから、白蘭は思わず笑みをこぼした。

(…って笑ってる場合じゃなかったよ正チャン)

とにかくこの部屋は、とてもじゃないが病人を看護するような環境ではない。居住フロアの正一の私室に運んでしまえばいいのだろうが、白蘭はそれなら自分の私室に運んでしまおうと思った。

「もう少し我慢してね、正チャン」

熱い呼吸を繰り返している彼の存在を背中に感じながら、白蘭は正一の研究室を後にした。





心地好い浮遊感に、心地好いぬくもり。しばらく感じていたそれがふいに遠ざかって、正一はゆるゆると意識を浮上させた。

「…あれ…びゃく、らん…さん…?」
「うん、起きちゃった?ごめんね」

にこりと笑う白蘭が目の前にいる、正一が把握できたのはそれだけだった。何であなたがここに、それにここどこだっけ。なにもわからない。ただじっと白蘭をぼんやりと見つめていたら、そういった疑問の感情がぜんぶ瞳に現れていたのだろうか。

「研究室に行ったらね、正チャン倒れてるんだもん。びっくりしちゃったよー」

だから僕の部屋に運んできたよ、とにっこり笑顔で白蘭は説明をしてくれた。うまく回らない頭で正一はその言葉をゆっくりと処理していく。なるほど、自分はどうやらここ最近の忙しさに負けたらしい。

「…さっきの、」
「うん?」
「…さっきの…あれ…びゃくらんさん、ですか…?」
「…んんー?」

一体何のことだろうかと白蘭は首を傾げる。すると正一が言葉を続けてくれそうなのを感じたので、白蘭は静かに彼の声を待つことにした。

「…なんか…あったかく、て…」
「うん」
「ふわふわ、して…きもち…いいなーって…」

だから、びゃくらんさんだったのかなって。ふにゃりと顔をほころばせる正一に、白蘭は思わず動揺してしまった。

「…チェルちゃんたちに連絡して、何か必要なもの持ってきてもらうね」

熱がある故の今のこの状態だということは分かっている、のだが。破壊力がありすぎる。こんな素直な正一など哀しいかな、耐性にない。

(たぶんおぶってきた時のこと言ってるんだろうなぁ)

正常な思考回路を擁していない状態の相手を真面目にするなんて、こちらの精神がすり減るだけだ。白蘭はそう判断して、とにかくチェルベッロに連絡を取ろうと通信機のもとへ足を動かした、はずだった。

「…正チャン、?」

服の裾を引っ張られるような感覚。振り向いてみれば、案の定と言うべきなのか正一の手が自分へと伸びていた。今の正一が出せる力なんて弱々しいものでしかないはずなのに、どうしてだろう。白蘭にはそれが、とても強いものに思えた。

「…どこ、いくんですか…」
「どこって…チェルちゃんに連絡取りに」

ミルフィオーレ隊服の上着には連絡用無線が付いているのだが、あいにく今の白蘭は上着を身に纏っていなかった。ソファに脱ぎ捨てられたそれと、ソファの目の前のテーブル上にあるパソコン。ほぼ同じ距離関係にある連絡ツール。どちらを使うにせよ、ベッドからは離れている。白蘭はそこへ行かなければ連絡できない。それでも正一の左手は、白蘭の服を掴んだまま離さなかった。
仕方ないなぁ、という感情を含んだ溜め息を小さくこぼし、白蘭は正一に向き直った。伸ばされたままの左手を取って握れば、熱い体温が伝わってくる。正一の横たわるベッドに腰をかけて、白蘭は正一の手を握ったまま、もう片方の手で彼の額に手を伸ばした。

「どしたの、正チャン」

汗ではりついた前髪を払うように避けてやりながら、白蘭が穏やかに問う。髪をやさしく撫ぜられる感触が心地好かったのか、それとも熱で苦しいだけなのか。正一はゆっくりとした動作でまばたきを繰り返した。白蘭の呼びかけに応えようと小さく開いた唇から、熱い吐息がこぼれる。

「…いか…ないで…」

熱に、浮かされているだけ。そう片付けてしまうのは簡単だった。それでも、正一からこぼれた言葉に白蘭は一瞬目を見張った。熱で潤む正一の緑色の瞳は、弱々しくもしっかりと白蘭を捉えている。

「…いか、ないで…ください…ぼくは……ずっと…」

力尽きてしまったのだろうか。そこで言葉は途切れてしまった。意識はあるようだけれど、これ以上正一が言葉を紡ぐことはない気がした。伏せられた緑色に、白蘭は微笑む。

「…わかった行かないよ。どこにも、行かない」
作品名:ゆめみごと 作家名:ハカナ