【イザシズ】 プレゼント 【オリジナルキャラ有】
プレゼント
わたしはおとうさまが十七歳の時に産まれました。おとうさまの名前は平和島静雄です。私の名前は平和島静緒です。音は一緒です。おそろいです。
母親はわたしを産んですぐに他界したそうです。多分それは嘘なんだと思いますがどうでもいいお話です。わたしはおとうさまそっくりに育ちました。まわりは皆、わたしを美人だ美人だと褒めてくれました。おとうさまに似ているのです。美人で当然です。
わたしはおとうさまが大好きでした。今でも大好きですが、わたしが愛さなければならないのはおとうさまではありません。
わたしはおとうさまが用意した最高のプレゼントでなければならないのです。わたしは最高の贈り物であるべく、幼少の頃から大量の書籍を読み漁り、沢山の言語を会得し、礼儀作法を学び、家事全般を完璧にこなせる大和撫子へと成長しました。おとうさまはわたしの頭をそっと撫でて、褒めて下さいました。幽お兄様も、本来はおじ様にあたりますが、わたしはお兄様と呼んでおりました、わたしの成長を喜んで下さっていました。
おとうさまのように金髪にするのはわたしがプレゼントとして渡される時でいいだろうとおとうさまが仰るので、わたしは幽お兄様のような漆黒の黒髪で十五年間過ごして参りました。
わたしの十六歳の誕生日がきました。いよいよわたしが贈り物としておとうさまの役に立つ日がやってきました。わたしは朝一番に池袋の駅の近くの美容室へ行き、長かった髪を切り、おとうさまとおそろいの金髪になりました。セット面の姿見に映るわたしは本当におとうさまそっくりで惚れ惚れしました。自惚れと仰いますか?
でも、おとうさまそっくりなのです。生き写しの自分の姿にうっとりしてしまっても何らおかしいことはありません。
おとうさまと同世代でしょうか。雑誌から飛び出して来たようなお洒落な格好をした担当の男性の美容師さんが、
「なんだか髪切る前は羽島幽平に似てると思ったけど、金髪にすると平和島静雄に似てますね、あ、男性ばかりで失礼ですね、ごめんなさい。でも、2人とも美形だし、お客様が美人だ、って言いたかったんです」
わたしは実にいい気分になり、
「まぁ、ありがとうございます。平和島静雄はわたしの父なんですの」
と、自慢してやりました。幽お兄様の事は黙っていました。美容師さんの畏怖の目と、それ以上にわたしの美しさに息を飲む様子が手に取るようにわかり、わたしは鼻歌でも唄いたいくらい上機嫌になりました。
金髪になったわたしを見て、おとうさまはニッコリと微笑みました。嬉しそうです。わたしも嬉しくて堪りません。おとうさまのお役に立てる。ただそれが嬉しかったのです。わたしは幽お兄様に買っていただいたヴィトンのボストンバッグに簡単に荷物をまとめて平和島家から出ました。
おとうさまとふたりで山手線に乗り込み、わたしたちは新宿で降りました。新宿は今にも雨が降りそうで、何でこんなめでたい日に曇っているのかしらと、わたしは空を睨み付けました。おとうさまはその様子にわたしが雨に濡れるのを嫌がっていると勘違いして
「まだ降らないから安心しろ」
と、肩をぽんと叩きました。暖かい手。どんなものでも破壊してしまう美しくも恐ろしい手。わたしはおとうさまの手が大好きでした。わたしにもその力があればいいのにと思ったものですが、その力に悩み、苦しんでいるおとうさまを見ていると、そんなことは口が避けても言えませんでした。あるいはわたしにもその力が秘められているかもしれません。ただし、わたしはそんな感情を抱くことなく育てられました。幸せ者です。怒りを知らないのですから。
わたしはおとうさまが十七歳の時に産まれました。おとうさまの名前は平和島静雄です。私の名前は平和島静緒です。音は一緒です。おそろいです。
母親はわたしを産んですぐに他界したそうです。多分それは嘘なんだと思いますがどうでもいいお話です。わたしはおとうさまそっくりに育ちました。まわりは皆、わたしを美人だ美人だと褒めてくれました。おとうさまに似ているのです。美人で当然です。
わたしはおとうさまが大好きでした。今でも大好きですが、わたしが愛さなければならないのはおとうさまではありません。
わたしはおとうさまが用意した最高のプレゼントでなければならないのです。わたしは最高の贈り物であるべく、幼少の頃から大量の書籍を読み漁り、沢山の言語を会得し、礼儀作法を学び、家事全般を完璧にこなせる大和撫子へと成長しました。おとうさまはわたしの頭をそっと撫でて、褒めて下さいました。幽お兄様も、本来はおじ様にあたりますが、わたしはお兄様と呼んでおりました、わたしの成長を喜んで下さっていました。
おとうさまのように金髪にするのはわたしがプレゼントとして渡される時でいいだろうとおとうさまが仰るので、わたしは幽お兄様のような漆黒の黒髪で十五年間過ごして参りました。
わたしの十六歳の誕生日がきました。いよいよわたしが贈り物としておとうさまの役に立つ日がやってきました。わたしは朝一番に池袋の駅の近くの美容室へ行き、長かった髪を切り、おとうさまとおそろいの金髪になりました。セット面の姿見に映るわたしは本当におとうさまそっくりで惚れ惚れしました。自惚れと仰いますか?
でも、おとうさまそっくりなのです。生き写しの自分の姿にうっとりしてしまっても何らおかしいことはありません。
おとうさまと同世代でしょうか。雑誌から飛び出して来たようなお洒落な格好をした担当の男性の美容師さんが、
「なんだか髪切る前は羽島幽平に似てると思ったけど、金髪にすると平和島静雄に似てますね、あ、男性ばかりで失礼ですね、ごめんなさい。でも、2人とも美形だし、お客様が美人だ、って言いたかったんです」
わたしは実にいい気分になり、
「まぁ、ありがとうございます。平和島静雄はわたしの父なんですの」
と、自慢してやりました。幽お兄様の事は黙っていました。美容師さんの畏怖の目と、それ以上にわたしの美しさに息を飲む様子が手に取るようにわかり、わたしは鼻歌でも唄いたいくらい上機嫌になりました。
金髪になったわたしを見て、おとうさまはニッコリと微笑みました。嬉しそうです。わたしも嬉しくて堪りません。おとうさまのお役に立てる。ただそれが嬉しかったのです。わたしは幽お兄様に買っていただいたヴィトンのボストンバッグに簡単に荷物をまとめて平和島家から出ました。
おとうさまとふたりで山手線に乗り込み、わたしたちは新宿で降りました。新宿は今にも雨が降りそうで、何でこんなめでたい日に曇っているのかしらと、わたしは空を睨み付けました。おとうさまはその様子にわたしが雨に濡れるのを嫌がっていると勘違いして
「まだ降らないから安心しろ」
と、肩をぽんと叩きました。暖かい手。どんなものでも破壊してしまう美しくも恐ろしい手。わたしはおとうさまの手が大好きでした。わたしにもその力があればいいのにと思ったものですが、その力に悩み、苦しんでいるおとうさまを見ていると、そんなことは口が避けても言えませんでした。あるいはわたしにもその力が秘められているかもしれません。ただし、わたしはそんな感情を抱くことなく育てられました。幸せ者です。怒りを知らないのですから。
作品名:【イザシズ】 プレゼント 【オリジナルキャラ有】 作家名:あへんちゃん公爵